ゆれるきもち

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「それは、言ったけど……」  何事かと思ったら、紫崎は袖と裾を平然と捲り、逞しい腕と腹筋を俺に披露し出した。 「……触りますか?」 「良いんですかっ!?」  酒を飲んでいるから理性が働きずらく、興奮して思わず敬語になってしまった。  そんな俺に紫崎は表情ひとつ変えず、寧ろ触りやすくする為にもっと側へ寄ってくれた。 「どうぞ。今までも触る機会はあったかもしれないけど、俺が隙を与えなかったし……いつも俺が触ってばかりだから……」 「あっ、ありがとうございますっ!」  かなりすごいことを紫崎が喋っていた気がしたけど。筋肉に触れる喜びが強くてスルーしていた。  俺はそのまま恍惚な表情で腕を揉んだり、腹筋を撫でたりして、彼の筋肉を堪能した。 (硬いし、でかいっ。まさか筋肉触らせてもらえるなんて……すげぇしあわ……)  夢見心地で筋肉を触っていたら、ふと紫崎と目が合った。  薄く微笑みながら俺を温かく見守っている感じが優しくて、大人の色気があった。  それで目が醒め、大人げなく取り乱していたことに気付いてしまって。恥ずかしくなった俺は、慌てて手を引っ込めた。 「もっ、もう十分だっ。ありがとうっ」 「もう良いの……?」 「あ、あぁ……かなり触れたし、もう大丈夫っ」 「そっか」  俺がうつ向いて視線を逸らすと、紫崎は服装を整えていた。  会社では、触りたくても見ていただけ。暴走しない様にきちんと自制していたから、こうやって甘えさせてもらうことは珍しかった。  酔っていたとは云え、紫崎がこんな風に自然に甘えさせてくれるとは思ってもいなかった。  だから、恋愛対象の男として意識しそうで少し怖くなっている。  何か話題をと考えたら、避けるべき内容ばかりが浮かんでしまって、俺は急遽立ち上がった。 「……どうしました?」  紫崎の視線が刺さる。  目的は定まっていなかったけど、ちょうど目に入ったのはテレビでやっていた料理の特集。それに、ツマミの惣菜も残り少ない。  思い付きで、作り笑いをしながら提案した。 「あっ、ツマミ少ないし……何か作ろうと思って……」 「係長って普段料理するんですか?」 「ま、まぁ……簡単なものなら。卵焼きとかはよく作るかな。ツマミにもなるし」 「じゃあ、係長の作った卵焼き食べたい……」
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