ゆれるきもち

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 立ち上がった俺を見上げ、紫崎は素直に要求してきた。  甘えさせてくれもしたが、甘えてもくれるのかって。部下を可愛がっていた気持ちも擽られる。 「わかった。少し待っててな」  顔を合わせたままなのは少し危険な気がしてしまって、距離を取る為にキッチンに向かった。  紫崎にはテレビを見ながらゆっくりしてもらって、俺はボウルに卵を割り始める。割りながら、熱くなる頬を冷まそうとしていた。 (部下とこういう風に過ごすの、憧れとか願望とかあったと思うけど……紫崎相手だと、何か違う。俺、いい歳して何考えてんだろ……)  浮かれそうになる自分の気持ちを、どうにかしたかった。  調味料を入れて、卵の黄身を解す様に菜箸でかき混ぜ、無心になろうとしたら、驚いた。 「っ……!?」  背後から手が伸びてきて、ボウルを置いた近くに着地した。あまりにも物音がしなかったから、心臓が止まり掛けた。  振り返るとすぐ横に紫崎の顔があって、慌てて前方に戻す。 「ど、どうしたっ」 「酒、取りに来たついでに調理風景見ようと思って……」 「あっ、冷蔵庫に入ってるからっ」 「作り終わってからでいい」  背中に、紫崎の身体が当たる。包まれてしまいそうだ。  緊張しながら卵焼き器を熱し、油をペーパーで敷く。  ちょうど良い温度になるまでの間、離れてくれないかと交渉を試みた。 「み、見ててもつまらないぞ……すぐ出来るし……」 「係長が料理するところなんて会社じゃ見れないし、見たい……」 「ひ、火使ってるから……」 「何もしないから大丈夫」 (心臓爆発しそうっ)  怒りとかではなく、恥ずかしさでだ。  何を言っても離れてくれないから観念して、そのまま調理を再開した。  十分に熱された卵焼き器に卵液を少し注ぐと、ジュウっと焼ける音がした。  二人で眺めながら、俺は丁寧に薄い卵を菜箸で巻いていく。また卵液を注いで巻いてを繰り返して、形を作っていった。 「上手いですね」 「何回も作ってるから、慣れた……」  紫崎が後ろに居る状況にも慣れてきた。すると、彼は何気なく質問してきた。
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