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「これ、味って甘いの?」
「あっ! 俺甘い派なんだけど、人に出すの久しぶりで、元彼がしょっぱい派だったからしょっぱくしちゃっ……た」
どちらにしろ、うっかりだった。
男同士の経験はあると言っていたものの、元彼について言及したのはこれが初めて。
なんとなく居たたまれないが、口に出してしまったものは仕方がない。
「ご、ごめんな。変なこと言っ……ん!」
反応に困るだろうと思って、紫崎の方を苦笑しながら振り返った。
気付けば顔が見えないくらい至近距離に紫崎の顔があって、唇が重なっていた。
「んんっ! んぅっ……!」
唇を押し付けられて、俺はまともに喋れない。危ないと思っていたけど、紫崎の手は目の前にあるコンロのスイッチにすぐ伸びていた。
火を消すと紫崎は俺の身体を撫で回して、ない胸を揉むみたいに手を動かしていた。それでも刺激になって、感じた声が漏れてしまう。
「んっ、んふっ、んむ!」
紫崎の気持ちが知りたくて、彼の手を掴んで動きを止めた。
唇が離れると彼の方に向き直り、紫崎の顔を見上げた。見えなかった表情がやっと露になる。
「む、紫崎……どうしたっ」
眉間の皺が深く刻まれていて、瞳が鋭い。じっと眺めていたら、彼は顔を隠すみたいに俺を強く抱き締めた。
苛立ちの篭った余裕なさげな低い声が、俺を求めていた。
「こういう風になるの、初めてだ。どうにもならないけど……なんか腹立つ。あんたに誰かが触れてたと思ったら、おかしくなりそうっ」
彼の腕は、更に俺を強く抱き締めていた。
紫崎の声を聞いた俺は、パニックに陥っていた。信じられない事態が起こっていて、彼を抱き締め返すべきかもわからない。
今の気持ちと同様に動作にも迷いが生じて、俺の手もそわそわしていた。
(これって、嫉妬? 紫崎があいつに? これは、どっ、えっ……まっ、待てっ。そんなっ、何かの間違いじゃ……)
紫崎の中で何かが変わってきているとは、思っていた。が、こういう関係を築いていても彼が俺に対して何か思うとか、微塵も考えてはいなかった。
ノンケが自分を好きになるなんて、一生有り得ない。そんな考えが俺の頭に刷り込んであったからだ。
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