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腰を曲げていた俺の身体を上向かせ、両手で頬を包み込んできた。とても近くに彼の怒った顔があって、緊張する。
彼は指で俺の頬を撫でながら、目を細めた。
「今の、俺の顔見てもう一回言えよ」
「えっ……」
目が合うだけで、喉が詰まったみたいに苦しくて、拒否感が強く出てるってわかった。
「ぁっ……いやっ」
「言えよ。もう一回」
話そうとしてもなかなか言えなくて、見つめられたまま喋れずにいた。
すると、紫崎の唇ははっきり動いた。
「嘘つき」
その一言で、ぼろが出てくる。
「うっ、嘘じゃなっ……」
「俺がどうにかなるとは俺も思ってなかったけど、あんたが俺を利用するとかは違うって、俺が一番わかってるから……そんな話聞かない」
「いやっ、けどっ……」
嘘だと言われて動揺し焦る俺に、彼は力強く言った。
「俺だけがあんたを好きでも、あんたが俺の身体だけ好きでもいいから……俺が本気なのはわかって」
「っ……」
真摯な気持ちが伝わってくるから、否定が出来なくなっていた。
でも、自分で消そうとしていた本音を漏らしてでも、遠ざけた方がいい気がして。
「本気だってわかったら、俺ますます離れられなくなるから……だめだってっ。俺だって自分の気持ちわからなくなってるから……自覚したら、紫崎に迷惑掛けるからっ……だから無理っ」
一瞬、驚いた顔をしていたけど、彼はすぐ真顔になった。
「……俺は、何言われても皐月さんを素直にさせるだけだから、もう何言っても無駄っ」
背中に手を回されたと思ったら、紫崎は俺を抱き上げて運び出した。
「えっ、待っ!? やめっ、下ろしてっ!」
「ベットで下ろす」
「そっ、それもだめだって! ちょっ、いやだっ! 紫崎っいやだっ、放せってばっ!」
淡々と男を運ぶ二十五歳と、運ばれながらグーで彼の肩を叩いて駄々をこねる三十四歳。
そんな二人の攻防戦が繰り広げられている間、出来立ての卵焼きはキッチンに放置された。
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