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自宅で紫崎と過ごす初めての夜は、当初思い描いていた内容と大きくずれていた。
「だ、だめだって紫崎っ! 今は待って!」
「待たないから。手放して」
「放したら脱がすだろっ!」
俺は今、防戦一方で、服を脱がそうとする紫崎の手を色気皆無な焦り顔で阻止していた。
抱えられて寝室に運ばれた後、彼は暴れる俺をベットに降ろした。
リビングのソファじゃなくてここに降ろすってことは、つまりそういうことで。
彼は俺に覆い被さるとすぐに衣服を脱がせに掛かった。
俺が否定しようとする気持ちを、抱いて引き出す魂胆らしく。彼の手は俺のスウェットを下着ごと握り、下に引っ張ろうとしていた。
その手を掴んで、俺は今の状態を必死に耐えている。
まさか、抱かれることを拒む日が来るなんて、俺自身思いもしなかった。
(今抱かれたらっ、絶対に流されるっ! 惜しいことしてるのはわかるけどっ、今は絶対だめだっ!)
が、力の強い紫崎に俺が力で勝つことは不可能。持久戦は分が悪い。いつかは限界が来ると思っていた。
しかし、俺の限界が来る前に、紫崎の手はすんなり俺のスウェットから離れた。
「えっ」
驚いて彼の顔を見上げたら、彼は険しい顔をしていた。そして、俺の上から退いて、ベットの端に座っていた。
背中を向けて座り出したから、俺への気持ちが冷めてしまったんだと、一瞬思った。諦めさせたい気持ちがあるのに、それはそれで寂しく感じて。自分に呆れる。
「あのっ、むらさっ」
「すみません……」
「えっ……」
どう接してやるべきか迷い、彼の肩に手を伸ばし掛けた時。冷静な謝罪の声が届いた。
「皐月さんが俺のこと、なんとも思っていないわけじゃないって感じたから……無理矢理抱けば言ってくれると思ったけど、卑怯だった」
「あ、いや! それは、紫崎が悪いわけじゃないからっ」
謝らせてしまっているのが申し訳なく、彼が自分を責める姿に胸が痛んだ。
少し怖いけど、受け入れられない理由を話すべきかもしれないって、感じ始めた。
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