はやくであっていたら

3/5

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
 姿勢を正すと、彼の背中に向けて控えめに話し掛ける。 「あの、俺ちゃんと言ってなかったけど……物心付いた時から男の人が好きで、ゲイ、なんだ……」  こういう関係になっているから、はっきり言わなくてもいい。そんな風に逃げてきた。  自分のことを知ってもらうのはとても怖くて、声が震える。でも、知ってもらった上で判断してもらわないとって。  苦しくなってくる胸元を握りながら、包み隠さず話した。 「俺、元々エッチなことにも興味があったんだけど、周りと自分が違うってわかってたから、ずっと全部隠してたんだ。けど、だんだん隠してるのが息苦しくなってきて……大学時代にゲイだってカミングアウトしたんだ。友達二人くらいに」  紫崎は黙っていたけど、軽く振り向いて俺の方に視線を向けてくれていた。  怖くて顔は見れなかったけど、ちゃんと聞いているのを態度で示してくれていた。  それに関しては嬉しかったけど、この先について喋るのは、俺にとってかなり辛いことで。  思い出したくなかった昔のことで、目の奥が痛くなってきた。 「それで、喋ったんだけど……一人は『それ、俺に喋る意味あるのか』って。歓迎して欲しいとかじゃないし、ただ知って欲しかっただけなんだけど……素っ気なくて。冷たい印象で。俺のことを悪くも言わなかったけど、言って正解だったのかもわからなかった」  元彼に話して以来、誰にも話さなかった重い話。  辛い日々を思い出してしまったからか、彼にどう思われるか不安だからか。わからないけど、涙が溢れていた。 「もう一人はさ、最初は真面目に聞いてくれてたんだけど……彼は、受け入れられなかったみたいでっ。後から俺の話、いろんな人に喋ってて、ゲイじゃなくて、ホモだって。陰で噂広めてた。それが、言ってなかった親にまで伝わってて……」 「は?」  紫崎の低い声で、彼が怒ってくれているのがわかった。  俺は涙声になりながら軽く笑って、言葉を詰まらせながら話を続けた。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加