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「親は受け入れてくれたけど、大学は居心地が悪くなった。卒業した後、その友人達とはそれっきり。それで、カミングアウトするの怖くなっちゃってさ。同じゲイの元彼と付き合ってからは何もなかったけど、別れた後もノンケとゲイは相容れないって線引いて。嘘ついて過ごしてきたんだ」
とても重い話だったけど、自分なりの付き合えない理由も、付け加えた。
「今は、俺達みたいな人にも寛容的にはなってるのかもしれないけど、偏見が完全にないわけじゃない。だから、俺と同じ様に変な目で見られることも、辛い想いさせることもあると思う。だから、好きな相手に俺みたいな体験させたくないんだ」
俺が話し終えると、こちらを向いていた紫崎はまた正面に座り直した。
俺は涙が邪魔で、情事の為に用意していた枕元のティッシュを手に取って、涙を拭った。
しばらく無言で居たけど、紫崎は突然立ち上がった。
一度、リビングに戻ったらしく、付けっぱなしで放置していたテレビの音声が途切れた。それに、リビングから漏れていた明かりも消える。
テレビと電気を消してくれたみたいだ。
寝室は灯りを点けていなかったから真っ暗で。サイドテーブルに置いていたテーブルランプを灯した。
戻ってきた紫崎は寝室のドアを閉めて、俺の方を無表情で眺めている。
「ごめん、電気とテレビ……ありがとっ……!」
視線が絡み合ったから、お礼を口にした。その間に距離を詰められて、俺は彼の腕の中に収まっていた。
「あっ、紫崎っ?」
身動ぐと、腰と頭に彼の手が触れて、膝立ちする彼と身体が密着した。
紫崎は、低い声でこう問い掛けてきた。
「皐月さんは……俺が周りの目気にする様に見える?」
そう問われて、真っ先に浮かんだ言葉を口に出した。
「……そうは、思わないけど……」
そしたら、俺の話にも冷静に言及して。
「……俺も、皐月さんと今みたいになってなかったら……一人目の人と同じ反応だったと思う」
「……うん」
静かに話を聞いて想像し、小さく笑みを漏らした。確かに紫崎だったらそうかもって、納得した。
でも今は、ちゃんと彼に話せた後だったから、不思議な気持ちだった。
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