はやくであっていたら

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 そして、紫崎は熱い体温を俺に伝えながら、過去の傷を軽くする言葉もくれた。 「相手の言葉は足りなかったかもしれないけど、皐月さんに対しては何も変わらないから……そう言ったんだって、俺なら思う。二人目に関しては、唯々撲りたいとしか思えないけど……もし俺がそこに居たら、俺なら盾になれた」 「えっ……」 「きっと、隣に居たら俺の方が目立つだろうし……皐月さんの噂なんて立たせない。他人の声なんかに、俺は左右されないから……俺を風避けとして利用してくれればいい」  低い声で、淡々と話しているのに、とても多くの優しさが感じられた。  引っ込んでいたものが、また目から溢れてきた。  身体が震えるし、声も漏れる。ぎゅっと紫崎のスウェットを握って耐えようとしたけど、どれも溢れるばかりだった。  それなのに彼は、まだ俺にたくさんの愛をくれた。 「あと、皐月さんがゲイじゃなかったら……こういう気持ちも知らないままだった。俺を想って滅茶苦茶な行動もしてたけど、そんな風に考えてくれるの、皐月さんだけだから。あんたに会えなかったらずっとつまらない生活してた。だから……」  愛しさを伝えるみたいに強く抱き締めてくれながら、耳元で言ってくれた。 「ありがとう」  照れながらもその五文字を口にしてくれたから、胸がいっぱいで。俺も口に出さずには居られなかった。 「こちらこそ、ありがとうっ……」  膝立ちしていた紫崎はゆっくり腰を下ろすと、そのまま俺を腕の中に閉じ込めてくれた。  俺は顔を見られたくないから、胡座を掻く脚の上に座って、紫崎にしがみ着いてた。  泣きじゃくる俺の背中を撫でて、紫崎は側に居てくれた。
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