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眠りが浅くなってきて目が覚めたら、知らない部屋だった。
初めて来たし、飲んでたから、部屋の特徴はそこまで覚えていなかったけど。隣に皐月さんが居て、思い出した。
(俺もあのまま寝たのか……)
俺が激しくこの人を求めた後。疲れ果てた皐月さんはそのまま眠ってしまった。
軽く処理等を済ませてから、彼の身体にタオルケットを掛けて、寝顔をしばらく眺めて。
傷付いたこの人を側で支えたいって思いながら、抱き締めて寝たんだ。
改めて寝顔を確認すると、表情は安らか。けれど、目元は涙のせいで少し赤い。
俺が気持ちを伝えたから、予定外の辛いカミングアウトをさせて、苦しませたんだ。
それに。
(そういう後だからこそ、もっと優しく抱けば良かった)
反省しながら、寝息を立てる彼の頭をそっと撫でて、静かに身体を起こした。
脱ぎ散らかしていた下着とスウェットを床から拾い上げ、下だけ履いて寝室を出る。
リビングの壁掛け時計を見ると、まだ午前四時頃。朝になりかけの中途半端な時間で、カーテンも閉めていたから部屋は薄暗い。
眠気も冷めたし、仕事柄、放置していたテーブルの上も気になる。
少しでも皐月さんの負担を減らす為に、テーブルの上だけ片付けることにした。
とりあえず、缶や食器をキッチンに移動させるだけ。皐月さんを起こしたくはないから、食器洗ったりは朝にやる。
粗方移動させると、コンロに残っていた卵焼き器に気付いた。
「……忘れてた」
中には出来上がった卵焼きがそのまま。
このままにしておくのは悪いと思って、用意されていた長皿に返した。ついでに、包丁で切り分ける。
綺麗な焼き色が付いていて、美味しそうだ。
元彼好みの味っていうのが頭に印象付いていて、イラっとはした。それでも、皐月さんが俺に作ってくれたものだ。
ひとつ摘まんで、口に運んだ。
しょっぱいとは聞いていたが、普通に食べられるくらいの良い塩気。俺は甘いのが好みだったけど。
「うまっ……」
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