こいのきっかけ

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 そのまま卵焼きを咀嚼しながら、実感した。 (年上の男と付き合うとか……こうやって付き合った相手の手料理食べたがるとか。昔じゃ考えられなかった。変わったな、俺)  初めての経験や気持ち、独占欲等を持って、しみじみと感じた。  こんな風になる前の、自分のままだったら。皐月さんと出会っていなかったら。  俺はきっと、最悪な人生を送ってた。  そんな風に考えながら卵焼きを食べて、皐月さんと初めて会った頃を思い出していた。  ─ ─ ─ ──── 「お前っ、やる気ないのもいい加減にしろよなっ!」 「……何がですか」  俺は、高校も大学もバスケ三昧で、最初はプロを目指していた。  アメリカに渡ることや、実業団のある会社に就職することも考えたけど。  結局、膝の怪我で断念した。  バスケは好きだったけど、それはそれで仕方ないって。自分の中では納得したつもりでこの会社に就職した。  けど、本当にやりたかったこととは違うから。自分の知らぬ内に、そういう雰囲気が滲んでいたのかもしれない。  事務所に入った時に上の先輩に挨拶されたから、頭を軽く下げて応対した。そしたら、その下に生意気だって言われて今にあたる。  別に挨拶を簡単に済ませた訳じゃない。俺としては、ちゃんと礼儀を示していたつもり。だから、怒られる意味がわからなかった。  仕事も、ちゃんと話を聞いて動いてる。けど、やる気がある様には見られない。でも、効率を良くしようとして先輩に意見したら、生意気だって言われる。言い返したら陰で反抗的だって噂されて、状況が悪くなった。  仕事以外でも、別に何もしていないのに女が寄ってくるから、俺は面倒なだけなのに。囲まれてたら調子乗ってるとか言われるし。  どうにもならなくて、うんざりしていた。  何もかも、意味がわからない。  バスケやっていた頃は、今の感じでも何も言われなかった。なのに、就職したらいろいろと窮屈に感じるようになっていた。  今も、周りは俺が悪いみたいな目して遠巻きに見ている。怒る先輩を宥めようとしている人は何人も居るけど、俺に寄ってくる奴は一人も居なかった。
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