こいのきっかけ

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 その時は色っぽいとか綺麗だとか、そんな風に感じていただけ。係長にはなんの感情もなかった。  年月が経って、かなり係長に気を許して、普通に雑談出来る様になっていた最近でもだ。  飲み会で、あまり聞かない係長の好みを黙って聞いていて、その時は意外と普通だって。率直に感じた。  夜の頻度まで上司に聞くのはさすがに無粋に感じてイライラしたけど。信頼している人が会社以外でどうなるのか。リアクションには出さなかったが、正直気になっていた。  係長の色っぽさで恋人居ないのは予想外。けど、ただそう思っただけ。  でも、そこから一気に状況が変わった。  話が終わった後。係長が途中から酒じゃなく、烏龍茶を飲んでいたことに気付いた。  係長とは何度か飲みに行ったことがあるけど、泥酔しているところは見たことがない。せっかくの飲み会なのに、周りに気を使っているんじゃないかって、なんとなく思って。  だから酔っ払い達と別れてからは、その場のノリでバーに誘った。  俺も酒が入っていたから、テンションは少し高かったかもしれない。  でも、バーに入った後、話は自然と恋愛関連の話。  俺はそれが苦手で、今まで感じてきたことを素直に口に出していた。すんなり言えたのは、相手が係長だったからだろう。  酒を飲みながらでも、係長は真剣に俺の話を聞いてくれていた気がする。   そして、それは突然やってきた。 「紫崎、それこそ……今までは何となく付き合ってたりしてたんだろうけどさ……無理に恋愛に興味は持たなくてもいいけど、試しにした事ない経験してみるとか、どうだ」 「……例えば?」 「男と、経験してみるとか……」  考えたこともなかった。しかも、そういう言葉を係長から聞くとも思わない。 (この人は、経験あるのか……?)  内心驚いたけど、係長の独特な色気はここから来てるんじゃないかって感じて。珍しく、他人に触れることに関して興味を持った。  男は経験したことがないし、不安みたいなものも多少はある。けど、係長なら大丈夫だって、変な自信みたいなものもあったから、興味本位で言った。 「それ、係長が相手してくれるんですか?」
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