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もしかしたら、本当に思い付いたことを言っただけで、係長は経験ないのかもしれない。冗談だって取られることも、想定はしたけど。
「うん……良いよ」
期待しているみたいな色気のある表情で、確信した。やっぱり、経験があるからなんだって。
係長がこれからどうなっていくのか。これから起こる物事に、一種の期待みたいな気持ちが俺にも芽生えた。
そんな気持ちを持ちながら、係長とトイレの個室に入った。
その後は、とても濃い体験が待っていた。
酔った係長はいつもの彼じゃなくて、隠れていたものが一気に顔を出した様子。でも、普段の優しさはちゃんとあって、俺をリードしながら触れてくれていた。
頬を撫でる手付きなんかも、俺が知らない初めての感覚。キスに至っては、今まで感じたことのない気持ち良さがあって、すぐ虜になっていた。
(唇やわらか……舌の動きも、エロい)
係長の妖艶な魅力に、俺はすぐに引き込まれていた。
けど、突然のことだったし、緊張で身体が快感に追いついていなかったみたいで。手でされても、舐められても、身体はすぐに反応出来ずにいた。
もちろん、嫌悪の気持ちはない。それどころか、されることを望む気持ちは少なからずあった。時間は掛かったかもしれないが、きっと後々には反応を示していただろう。
が、係長は盛大に勘違いしてしまった。
「ごめんな紫崎、お前が嫌がる事して……」
「え?」
「大丈夫だ。俺ちゃんと責任取るから、お前は今まで通りに仕事頑張ってくれ。俺居なくなるけど、元気でな……」
「……は?」
係長に取り残された後、俺がどれだけ動揺し、どれだけ自分の機能に対して悔やんだか。係長は知らないだろう。
(なんで、こういう時に限ってちゃんとならないんだ……情けな)
トイレの個室で、しばらく頭を抱えた。
お互い酔っていたから、多分二度目はない。それは仕方ないけど、係長の謝罪の言葉が気になって、翌日、すぐ係長に近寄った。
やっぱり様子がおかしくて、同意の上だったのに退職願まで隠し持っていた。
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