つきあいたてのふたり

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「……眼福」  起きてすぐに、しようと思っていたことがあった。  それは、紫崎の寝顔を眺めること。 「睫毛長いな……」  会社だとここまで近寄れないし。ホテルじゃ見る暇ないし、寝ていかないし。  見るなら今。  起こさない様に小声で喋りながら、うつ伏せで脚を投げ出して。レアな瞬間を堪能していた。  これからはいつでも見られるけど、それを早く実感したかったからなのかもしれない。 (もう、紫崎とは恋人なんだよな……夢みたいだ)  付き合うまでの葛藤はすごかったけど、今は幸福感に満ちている。  その気持ちは隠せない程、表情にも表れていた。そのまま恋人を眺めていたが、突然紫崎の目がぱっと開いた。  もう目が合っていて、紫崎は無表情で俺を凝視している。  きっと、相当気持ち悪い顔を彼に披露していただろう。  そう思ったら、彼の無表情が蔑む様な冷たいものに感じられ、顔は直ぐ様ベットに伏せた。 「……何でニヤニヤしてたんですか?」  紫崎の声はいつも通り、淡々としている。でもそれが、余計俺を恥ずかしくさせた。 「い、いや……ニヤニヤなんかしてないから……」  顔を上げられなくてしばらくうずくまっていたけど、背中に少しの重みと肌の温度が伝わった。  紫崎が、背中から俺を抱き締めてくれたからだ。  項の辺りがくすぐったいのは、紫崎の髪のせい。擦り寄るみたいに彼の頭が動いた。 「俺が側に居て、嬉しく思ってくれてるなら、良かった……」  そんな小さな声が聞こえてきて、胸がいっぱいだった。  顔を合わせるのは恥ずかしかったけど、俺は顔を上げて、紫崎の方を振り返った。 「紫崎は……?」  俺ばかり恥ずかしいのは少し嫌で、思い切って聞いてみた。  紫崎は腕に力を込めながら、俺の項に口付けてた。 「嬉しくないわけない」  唇の熱が全身に回っていく感じがして、言い方はあれだけど、朝からムラムラした。  いつまでもおはようの挨拶は交わさないまま。俺達はしばらく肌を密着させて、キスを楽しんでいた。
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