23. 明日は必ずやって来る

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 結婚して早二年。今までの中で一番まともな、そして幸せな結婚生活が送れている今現在。リヴェラはぎゅっとギルバートを抱きしめ返す。 「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」 「明日は俺も一緒に行けたら良かったんだけどな。気をつけて行ってこい。リリスとコンラッドによろしくな」 「ええ。必ず伝えるわ」  不思議だな、とぼんやり思う。あんなに大変で、何度も心が折れかけて、もう何をどう頑張ればいいのかも分からなかった回帰人生。それなのに八年も経った今となれば、それらの記憶は夢だったのではないかと思えるほどに現実味がなくなってきていた。 「そういえば、回帰の代償として世界に使い潰された所長の部下たちがいたじゃない? 今年また新たにひとり研究所に戻ってきたんですって。これでいなくなった全員が揃ったっていう報告の手紙が来ていたわ」 「そうか。やっぱり全員無事だったのか。良かったな」  世界が時間を巻き戻す際に犠牲となった記憶保持者たち。その全員を把握しているわけではないが、少なくともハリエットが知ってる限りの犠牲者は、全員この世界に再び生きて戻ってきたらしい。これに関しては完全に嬉しい誤算であった。  さらに時間が巻き戻りすぎていた謎についてだが、これに関してもハリエットがとある仮説を打ち立てていた。  曰く、これは「(ねじ)れた綱現象」だったのではないかと。  例えば、上からぶら下げた一本の綱があるとして、それがまっすぐぶら下がっている状態が正常に時間が進んでいる状態だとする。しかし、誰かがその綱を捩りに捩ったことで時間の進みに異常をきたしてしまった。その誰かというのはリリスなのか世界なのか、そのへんはまだ曖昧だが、ある意味どちらでも同じだろう。どちらにせよその誰かが綱から手を離せば、捩れていた綱は一気に元の状態へと戻り始める。それもかなり勢いよく。  そのため、綱は捩れが解けたあとも反動で少しだけ逆方向へと捩れることになる。ほんの少しなのですぐに自然と元に戻るわけだが、その逆方向への捩れが、時間が戻りすぎた要因だったのではないか。手紙の中でハリエットはそう語っていた。  リヴェラは嘆息する。そのハリエットとは、もうしばらく会っていない。
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