23. 明日は必ずやって来る

3/5
前へ
/125ページ
次へ
「所長には何度もクーデルカに遊びに来てくださいって言っているんだけど、なかなか頷いてくれないのよね。王太子妃になってからは一度も会えてないから寂しいわ」 「もういっそのこと出版記念のサイン会でも開催したらどうだ?」 「……ちょっとやだ、あなた天才じゃない? どうしよう、惚れ直しちゃう」 「いくらでも惚れ直してくれ。愛想尽かされたら俺が困る」  なおこの時の会話が原因で、数ヶ月後には本当にクーデルカへと召喚されるハメになるハリエットだが、それはまあ、まだ先の話である。  二人がサイン会の計画を立て始めたところへ、リヴェラ付きのメイドであるカレンがやってきた。今世での彼女は密偵ではない。そうなる前に、エレット王宮で働いていた彼女を正当に引き抜いてきたのだ。ついでにソフィアともつつがない関係を築いておいたので、当面はエレット王国との間に緊張が走ることはないだろう。あくまで当面はの話だが。 「妃殿下、フレデリカ・スチュアート様がお越しになっておりますが」 「ああ、明日出席する結婚式の段取りのことで最終確認をする予定だったの。先に部屋にお通しして。すぐに行くわ」  かしこまりました、と一礼してから踵を返すカレンの後ろ姿をリヴェラはじっと見つめた。  ずっとエレット王国に利用されるばかりの彼女だったが、今世では幸せなのだろうか。充実した毎日を送れているのだろうか。彼女をここへ連れて来たのはリヴェラの自己満足であるが、できればこの世界では幸せになって欲しいと思う。  もはや回帰することのないこの世界で、皆はどんな人生を歩むのだろうか。  リリスは明日、フレデリカの弟であるコンラッドと結婚する。父オスカーと母ジョーハンナと同じ、貴族では珍しい恋愛結婚だ。  一方のフレデリカは弟が婿としてルアンリ家に入るだろうことをいち早く予測して、スチュアート家を継ぐため一念発起。なんと数年前にダランベール学術研究機関に留学してしまった。あれにはさすがに驚いた。  そのダランベールにいるハリエットだが、最近は錬金術を現代に蘇らせることも視野に入れた研究を進めているらしい。その気にさせたのは例の懐中時計の修復がきっかけだと言っていた。  カレンはエレット王宮ではなくクーデルカ王宮で生き生きと働いているし、気になるソフィアの動向に関しても今のところはまだ問題ない。でも要注意人物であることに変わりはないため、今後もしばらくは気を張って接する必要がありそうだ。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加