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フレデリカのところへ向かうため、リヴェラは大事なサイン入り初版本を小脇に抱えて裏庭園をあとにした。歩きながら、もう一度本の表紙に目を向ける。
――『理不尽な時間旅行』。言い得て妙だ。確かに散々理不尽な目に遭ってきたのだ。ハリエットにはぜひこの本で荒稼いで溜飲を下げていただきたい。だって表彰しようとしたら全力で固辞されたし。あとはもうサイン会を開催して盛り上げるくらいしか報いる手段が思いつかない。
回廊の窓から空を見上げる。リヴェラは笑った。冷たくて無慈悲だと思っていた世界が、最近ようやく愛おしく感じられるようになってきていた。
……のちに、リヴェラとギルバートはクーデルカ王国有数のおしどり夫婦として歴史にその名を刻むことになる。在位中の彼らが成し遂げた偉業は錬金術の復興をはじめ数多くあるが、もっとも語り継がれているのはその夫婦仲の良さであった。
「リラは俺の唯一で最愛だ」
「ギルは私の唯一で永遠よ」
いつもそう言って幸せそうに笑っていたという逸話が、後世にまで伝わっている。
なにが彼らをそこまで惹き合わせたのかは誰にも分からないままだが、リヴェラが生涯大事にしていたという小説『理不尽な時間旅行』の中にそのヒントが隠されているのではないかと読み解く歴史家も多い。が、真偽はきっと誰にも分からないままだ。それこそ本人たち以外には。
後世でそんな風に思われることになるとは露知らず、今日もリヴェラは機嫌よく歩いていく。今ならこの回廊の先までどころか、世界の果てにまで歩いて行けそうな心地がした。
でも一人で行ってもつまらないから、その時はギルバートも一緒に連れて行こう。そんなことを考えながら、リヴェラは二度と繰り返すことのないこの先の長い人生の道のりを、しっかりと踏みしめながら歩いていった。
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