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「もう帰国していたのか。手紙を送ったのは二日前の晩だが」
「国境を越えるとはいえ距離的には近いもの。それよりやけに煤けているけど、さてはリリスを置いて一人で王宮から逃げ出してきたのかしら」
遠慮のないリヴェラの指摘にギルバートは一瞬だけ目を見開く。しかしすぐにその端正な顔に歪んだ笑みが広がった。
「ああ。もう手遅れだったしな」
燃え盛る王宮から一人で脱出したギルバート。それはつまり、妻のリリスを見捨てて逃げたということに他ならない。
だがリヴェラにはそれを責める資格などなかった。ギルバートがリリスを見捨てたように、リヴェラもまたリリスを助けには行かなかったのだから。
ここまで火が強くなる前ならば、その気があれば助けに行けたはずなのに。本当に助けられるかは五分として、それでも傍観することを決めたのはリヴェラである。
妹が死なないように、リヴェラはこれまで様々な道を模索してきた。見聞を広めるために旅に出たり、王太子妃となった妹の行動を見張れるよう王宮メイドになってみたり、国同士の戦争になった時に備えて軍人になってみたり。ちなみに今世では隣国にある高等教育機関に留学して、王室付きの学者を目指しているところだった。
けれど、いくら手を尽くしても毎度あっさり妹は死ぬ。変わるのはせいぜい死因と年齢くらい。こんなことを十回以上も繰り返していれば、さすがに嫌気が差してくる。助けに行くのを諦めるくらいには。リヴェラは気怠げに起き上がった。
「こんなことならリリスをあなたに任せっきりにするんじゃなかったわ。せっかくこの回帰を終わらせるための手がかりを見つけられそうだったのに、真偽を確かめる前にふりだしに戻されるなんて」
「留学の話が出た時に即座に自薦して俺にリリスを押し付けたのはお前だろうが。というか、収穫があったのか」
ギルバートが意外そうな顔をする。リヴェラが隣国へと留学していたのは、王室付きの学者を目指す以外にも理由があったことを彼だけは知っていた。
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