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ショッピングモール内に時計はない。
デスゲームに時間制限がないのは不幸中の幸い。だが、これでは朝なのか夜なのか、目覚めてどれほど時がたったかも不明。とても不便だ。日頃病院で規則正しい生活する身では、余計にそう感じる。
正確には不明だが、恐らく三時間程過ぎただろう。資料を読んでトイレ休憩を終えた頃合いに、中央に位置する椅子の間に戻ってきた。
安路と恵流の二人が最後だったらしい。これにて全員集合となった。
薄暗い部屋の中、各々の面持ちは輪をかけて暗い。互いに顔を合わせず俯いている。脱出のヒントが見つからなかったのだろう、と容易に想像がつく。食料がなかったのも原因だろう。どこの店舗にも食べられそうな物はない。フードコートのウォーターサーバー、あるいは歯科医院とトイレの水道で喉の渇きを癒やすのが関の山。残された時間はそう長くないだろう。
だが、その一方で、ある程度の収穫もあったらしい。守は銀色の金属バットを手にしている。同様に、春明の手にも銀色に光る何かがあった。
「満茂さん。そのバットはどこで?」
「ペットショップだよ」
「はい?」
冗談にしか聞こえなかった。金属バットとペットショップ、繋がりが全く見えない組み合わせだ。
しかし、本当らしく、
「うるせーな。マジで籠の奥から出てきたんだよ」
守は鋭い怒気を放ってくる。彼曰く、ペット用の籠の裏にあったらしい。しかも、籠の中には、参加者全員の切り抜き写真が入っていたとこのこと。悪趣味である。
疑って申し訳ないと頭を下げ、安路は気になるもう一人へと向き直る。
「瀬部さんが持っているのは?」
「コレ、ナイフですよ」
チャキチャキ鋏のような音がして、春明の手の中で銀色が素早く回転、鋭利な刃が剥き出しになった。かつて非行少年の代名詞だった、バタフライナイフという折り畳み式の刃物である。
切っ先を突きつけられ、安路は怯んで後ずさる。はっとした春明は「ごめんなさい、ですね」と、鮮やかな手捌きで刃を仕舞った。
「それで、ナイフは一体どこに?」
気を取り直し、発見場所について質問する。心臓の早鐘は未だに鳴り続けていた。
「ワタシ、お腹空いた。だからご飯屋行きました」
空腹でフードコートを訪れると、並んでいるのは四つの看板。蕎麦屋、うどん屋、ラーメン屋、アイス屋。何故か麺類を取り扱う店ばかり。妙だと考えた春明は、唯一の例外であるアイス屋を調べた。すると、冷凍庫内にはアイス代わりにナイフが一本。キンキンに冷えていたとのことだ。
「これまた変な場所に……」
「そ、それならオレも見つけたぞ」
続けて証言するのは織兵衛だ。
しかし彼は武器らしき物を持っていない。
「ピコピコの中に、ゆ、弓矢みたいな、鉄砲みたいなのがあった。け、景品だから取れなかったけどな」
どうやらゲーム筐体に、景品として武器が鎮座しているらしい。
「それは多分ボウガン、正式名称はクロスボウね」
恵流が武器について補足を付け加えてくれる。
話によると、UFOキャッチャーの景品で、ぬいぐるみに混じってクロスボウがあるらしい。
安路の中で段々と、不安が細菌のように増殖していた。
話を纏めると、施設内には武器があり、わざわざ隠して置かれている。籠の裏、冷凍庫の中、UFOキャッチャーの景品。それらを用いて殺し合え、という主催者の思惑が見え隠れする。
殺し合いなんて、絶対に駄目だ。
安路は頭を掻き毟り、嫌な予感を振り払うように話題を変える。
「このゲームについて、みなさんに聞いてほしいことがあります」
三時間強、情報を整理し導き出した、デスゲームについての考察だ。
まずは、そもそも本当にデスゲームかということ。これについては確実だろう。頑なに認めなかった織兵衛も、クロスボウを見て確信に変わってきたらしい。
突然の拉致監禁、作り込まれた会場、そして隠された武器。お膳立てからして、デスゲームなのは確定。施設内の監視カメラからして、主催者達は別室で様子を見ている可能性が大。その目的は苦しむ姿を鑑賞する享楽か、はたまた常軌を逸した崇高なる儀式のためか。真意は未だ不明だ。
しかし、ある程度の推測は可能。
「まだ仮説ですが、二つほど可能性が考えられます」
安路は抱えた本を降ろし、左手を挙げ、手錠からぶら下がる狼のフィギュアを揺らす。
「まずはこのフィギュアについて。モニターにある通り、僕達それぞれに様々な生き物があてがわれていますが、これらは――」
空いた右手で拾い上げるのは“解説・七つの大罪”という本だ。題名の割に表紙はポップ、可愛らしいキャラクターが描かれている。擬人化された悪魔らしい。
「――キリスト教用語の“七つの大罪”を表しているのではないか、と」
恵流以外の反応は芳しくない。ポカンと頭上に疑問符を浮かべている。
照れ隠しに頭を一つ掻くと、安路はページを中程まで捲ると開いて掲げた。そこには“七つの大罪”と、それに関連付けられる物が記載されている。
それぞれの罪に対応する悪魔、幻獣、そして生物。
本の記述では諸説あるとしつつ、罪と生物について、以下のように載せられていた。
嫉妬――蛇。
強欲――蜘蛛。
暴食――蠅。
怠惰――蝸牛。
憤怒――狼。
傲慢――蝙蝠。
色欲――蠍。
「この“七つの大罪”が、モニターの一文とリンクしていると思われます」
“六名の罪を悔い改めし者が座する時、残されし最後の者が光を臨める”
この文の参加者を罪人扱いする箇所は、フィギュアの生物と紐付けて罪と表しているのではないだろうか。
「次に、これらの生き物が毒、あるいは人に害なす生き物である点が気になります」
本では罪に対応する生物について、他の種類も列挙されている。犬や猫、豚や牛などとする説もある。
しかし、何故か選ばれたのは有毒、有害な動物ばかりなのだ。
「蛇や蜘蛛、蠍は毒を持つ生き物として有名ですし、蠅や蝸牛、蝙蝠は病原菌や寄生虫の媒介になります。狼は少し苦しいですが、おそらく獣害、もしくは狂犬病を表しているかと」
「前置きはいいから、はよ言えや」
中々結論に辿り着かず、守が催促してくる。
「ええと、つまりですね。これは所謂、“蠱毒”ではないか、と」
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