第二章:DANGEROUS

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「も、もう一度、全員で探索しましょう!」  悪い流れを断ち切ろうと、安路は慌てて提案する。 「笛御さんは事故、不幸な事故でお亡くなりになっただけです! 満茂さんは悪くない、だからきっと……そう、()えてカウントしてくれたんですよ!」  デスゲームのクリア条件、“六名の罪を悔い改めし者”が椅子に座ること。それが死体でも可能となれば殺し合い待ったなし。そのため、カウントされた理由は、不慮の事故後もゲームを続行させるため、と考える方が平和的だ。自分達を監視している主催者達が特別に計らってくれた。そう読み解くしかない。 「ですから、短気を起こしたら駄目です。笛御さんのは事故だから特例で、本来は死体を座らせちゃいけないんだ」  “悔い改め”ることが条件で、亡骸(なきがら)をカウントしてはルール違反。ゲームマスターたる主催者側がそれを許すはずがない。謎を解くよりも、裏技を見つけて脱出するよりも、殺す方が楽だから。と、他人を犠牲に勝ち残ろうとしてはいけないのだ。 「さっきも言いましたけど、武器を隠しているのが怪しいんですよ。殺し合いならもっと他のやり方をするはず。謎解き要素を散りばめる手間なんてしない。だから武器は罠、仲間割れさせるための揺さぶりなんです。正解か間違いか、その選択を見ている。主催者側の立場で考えてみてください!」  デスゲームの攻略法といえば、クリア条件を達成するか主催者を打破するかの二択。そして殆どの場合、後者を望む主催者はいない。遠隔操作で爆破出来る首輪をつけたり密室を毒ガスで満たしたり、ゲーム進行に不利益な者は排除するのが鉄則だ。  しかし、主催者の介入が多いとゲームは面白くない。可能な限り参加者だけで回してもらいたい。故に、人心を揺さぶる仕掛けを張り、間接的に望む流れへと誘導する。  それが隠し武器の意義であり、殺し合いという破滅の道への分岐点なのだ。 「満茂さんも、皆さんも冷静になりましょう。謎を解くため、ここから抜け出すため、最後まで諦めず手掛かりを探すんですよ!」  とにかく、殺し合いだけは阻止しなくては。  その一心で、他の事柄に目を向けてもらおうとしたのだが、 「確かに、探せば武器も見つかるかも、だからな」  守の返答は――最悪。  事故とはいえ人を殺めたせいか捨て(ばち)になっている。金属バットがいつ振り上げられてもおかしくない。 「はっ、冗談だよ」  守は鼻で笑う。  口ではそう言うも、こちらは不安ばかりが残る。水槽の底に溜まる(おり)のように、不穏なうねりが渦巻いている気がしてならない。  そんな安路を一瞥(いちべつ)し、守は金属バットを肩にかけて(きびす)を返す。大股歩きで差し込む光の先へと行く。 「ど、どこに――」 「てめーが言ったンだろーが。手掛かりってのを探しに行くんだよ」  去り際にそう答えるが、語気には当初の勢いがなく、足元から伸びる影が尾を引くだけだった。  彼に続き明日香と玲美亜、そして春明も立ち去ってしまう。三人とも無言だ。お互い監視し合うように、視線を交錯させながら光の中へ消えていく。  またもぽつんと残される安路と恵流。数時間前との違いを挙げるとすれば、物言わぬ肉塊と化した織兵衛が座していることだけ。  事態は間違いなく、悪い方へと転がり始めていた。  やっとデスゲームの目的が掴めそうかと糸口が見えたのに、事故を機にあっという間に空中分解だ。しかも、一触即発の燃料がたんと溜まっている。 「ああ、もう。なんでこうなるんだっ」  もどかしくて頭を()(むし)ってしまう。  彼らを纏め上げる技量があったなら、(いさか)いを止められる強さがあったなら。織兵衛は死なずに済んだだろうし、全員の気持ちが散り散りにならずに済んだはずなのに。  デスゲームに巻き込まれて、(ようや)く自分にも出来ることがあると意気込んだのに。生きてきた甲斐(かい)がない、無駄な人生だ。きっと、これこそ自分の背負う罪なのだろう。いっそ消えてしまいたくなる。 「安路はよくやっている。この私が認めてあげるわ」  恵流の指先がそっと手の甲に触れてくる。白く細長いそれは、安路の骨と皮だけの手に折り重なり、きめ細かい肌を寄り添わせた。 「自分を責めないで」 「でも……」 「ネガティブが一番の敵。“諦めず”にって、安路が言ったんでしょう。なら、その聡明な頭脳を活かしなさい」  真っ直ぐ意志を貫き通す、澄み切った瞳。  死を目の当たりにして、彼女だって動揺しているはずなのに。  年下なのに、なんと頼もしいのだろう。一抹(いちまつ)不甲斐(ふがい)なさを抱いてしまうも、安路の心は幾分軽くなる。 「そう、だよね」  失敗続きだ。しかし、腐っている場合じゃない。  こんな自分を慰め励まし、奮起させてくれる少女がいるのだ。彼女のためにも、この地獄から救い出さなくては。  それこそが、今一番求められていることじゃないか。  安路は両頬を叩いて気合いを入れる。 「まだまだ、これからだ」  最後の瞬間、どんな袋小路(ふくろこうじ)になろうとも手を尽くす、足掻(あが)き続ける、絶対に諦めない。  安路と恵流は改めてショッピングモールへと繰り出す。  今度こそ脱出の手掛かりを見つけてみせる、そう誓って。
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