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1. 幼い頃の記憶
圭祐は小学一年の夏休み、祖母に連れられ夏守町の伯母の家を訪ねた。
祖母が伯母の家に一泊するというので、従兄達と遊びたい圭祐が一緒に行くとせがんだのだ。
「夏休みの宿題を終わらせたら連れて行ってやるよ」
祖母に言われた圭祐は、宿題を終わらせて祖母と電車に乗った。
今は郊外に移転したが、伯母の嫁ぎ先は当時は夏守駅前の商店街で小さな和菓子屋を営んでいた。
ところが家に着いてみると、従兄達は夏休みも残り少ないのに宿題をため込んでいて、圭祐の遊び相手をする余裕はなかった。
暇を持て余した圭祐は夜、こっそり外に出て、駅前広場に向かった。
その頃の駅前は今ほど寂れておらず、広場の噴水にまだ水があり、夜はそれにライトが当たって綺麗だと従兄に聞いたのだ。
商店街は既にシャッターが下りていたが、街灯が灯っているし怖くはなかった。薄暗い道を駅に向かって歩いて行った。
しばらく行くと、子供の泣き声が聞こえてきた。
もうすぐ駅前広場の灯りが見えるという辺りの電信柱の下で、白い着物を着た坊主頭の幼稚園児位の男の子が泣いていた。顔に手を当て下を向いているから顔は見えない。
「どうしたの?」
男の子は泣き止まない。
「迷子になったの?」
圭祐がもう一度聞くと肯く。
「どこに行きたいの?」
「え……き……」
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