8. 夏送り

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8. 夏送り

 翌朝、圭祐は一本早い電車に乗った。  昨日、死んだ本庄に自転車を貸したので、学校まで徒歩で行かなければならなかった。自転車は学校になければ、本庄の家に引き取りに行くつもりでいた。 「あっ」  夏守駅に着き改札を抜け駅舎を出て歩き出そうとすると、すぐ脇の駐輪場の目立つ所に、圭祐の自転車が置かれていた。  律儀にも本庄は、自転車を駅に返しに来たのだろう。  辺りを見回すが、本庄の姿はなかった。  圭祐は心の中で本庄に礼を言って、自転車にまたがり学校へ向かった。  今日で夏季集中講座は終わりだった。  父親が今日は仕事で夏守町よりさらに東の町に車で出かけると聞いて、帰りに夏守駅で拾ってもらうことになっていた。遅くなると言われたが、構わないと答えた。  終電を見送り、そのあとに黒い電車が来るか待とうと思ったのだ。  昨日、ホームにのっぺらぼうの男の子や、ほかにもいくつか人影が見えた気がした。  終電が終わったホームで、彼らは何を待っていたのか。あの黒い電車を待っているのではなかったか。  天気予報では、夏らしい暑さは今日までだと言っていた。 (あの黒い電車は今夜来るのではないか?)  そう圭祐は考えた。
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