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男の子が言うので圭祐は、「それなら僕も行くから一緒に行こう。すぐ近くだよ」と手を繋いでやり、泣き止まない男の子を駅まで連れて行った。
すると、駅舎の前に駅員みたいな白い帽子と白いぱりっとした制服を着た若い男が、心配そうに立っていた。
制服の白さが夜目に鮮やかだった。しかし、ここの駅員はそんな立派な制服を着るだろうかと、子供心に不思議にも思った。
それに、あとで思い返せば八時台の終電も行って、駅に人などいるはずなかった。
男は意外と若く、とても綺麗な顔で、ゆるいウェーブがかかった髪の毛は緑色に染められていた。名札に名前が書かれていたが、小一の圭祐には「〇〇川」と“川”の字しか読めなかった。
「ああ、心配した。置いていくところだったよ」
男は泣いている幼児に声をかけ、それから圭祐を見た。
「おや、君は視えるんだね。この子を連れて来てくれてありがとう。助かったよ」
そう言ってから、さらに圭祐をじっと見つめた。
「中途半端な視え方じゃ困るだろう。お礼にちゃんと視えるようにしてあげよう」
男はそう言うと右手で圭祐の両目を覆い、そしてすぐに離した。
何か変化があったわけではなかった。
「さあ、電車が出発するから行くよ。君も気をつけて帰りなさい」
男はそう言うと、幼児の手を引いて駅の中に入って行った。
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