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圭祐が見送っていると、手を引かれた幼児が振り向いて圭祐に手を振った。
圭祐は驚きで目を見開いた。
その顔には目鼻や口がない、いわゆるのっぺらぼうだったのだ。
圭祐は怖さよりも好奇心が増して、駅舎に近寄った。
ホームには見慣れぬ電車が停まっていた。いつもの電車は緑色なのだが、その電車は黒かった。
車内は明るく、窓から中が見えた。
中にはうつろな表情の人間の姿もあったが、ろくろ首やさっきの子供みたいなのっぺらぼう、唐傘お化け、一つ目小僧、それにおかっぱに赤い着物の女の子がいた。
圭祐はびっくりして後ずさった。そのあとの記憶はない。
気づけば、伯母の家の祖母の隣の布団で朝を迎えていた。
圭祐がいないので皆で探すと、駅舎のベンチで眠っていたという。
勝手に外に出たことは叱られたが、その日一日従兄達に遊んでもらい、祖母と電車で帰った。
朝方から急に気温が下がり、秋の風が吹いた日だった。
そんな夏の終わりの想い出だった。
あの夜以来、圭祐は不思議なものを見るようになった。
祖母が亡くなった時には、前夜、入院しているはずの祖母がお別れに来た。
隣の家の奥さんの一周忌には、道端で奥さん本人と会い、「主人に百合の花を供えてと伝えて」と頼まれた。
しかし特に害はないので誰にも話さず、やがて圭祐は高校生になった。
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