2. 夏季集中講座

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2. 夏季集中講座

「古典文学にも幽霊や霊魂が関わる話が多くあり、その多くは夏に……」  教室に日本史教師の野田(のだ)の声が響いていた。  県立夏守(なつもり)高校では夏休みに、受験生に向けて夏季集中講座が開かれていた。  八月も(すえ)、明日で講座が終わるという日のことだ。 「また脱線かよ。なんだこれ、国語の授業か? 日本史だろ?」 「あーあ、世界史選択にしとけばよかったな」 「入試まであと半年もないのに、いい加減にしてくれよ」  生徒の不満の声がひそひそと広がっていく。  野田の話は面白いのだが、天王山の夏であるこの時期だけは、入試と関係ない話はやめてほしいと圭祐も思う。   「では、牧田(まきた)」  生徒の不満に気づいているのかいないのか、野田は突然、一番毒づいていた牧田を当てた。 「秋はどうやって来ると思う?」 「夏が終わると秋が来ます」  質問の意味を測りかねて、牧田は棒読みで答える。 「じゃあ、夏はどうやって終わると思う?」 「えっ、どうやってって……」 「この夏守町の“もり”は“守る”という漢字が使われている。それには伝承がある」  野田は続ける。 「この町には夏を守り、夏の終わりに“夏送り”をして季節を秋に変えるという役目があったというものだ」 「また郷土史の話ですか? それ、受験に出ますか?」  牧田が不満そうに聞く。  野田は地元の郷土史家でもあった。 「まあ聞け。今日の講座の範囲は終わった。あと五分、気分転換に俺の無駄話を聞いてみろ」  野田が笑って言うもんだから、牧田も黙るしかない。
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