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「夏守駅から夏の終わりの夜、見慣れぬ電車が出る。それを送ると、秋が来る」
「先生、それ〇ちゃんねるの都市伝説ですかーー?」
女子の誰かが茶化し、生徒がどっと笑う。
「で、文学の話だ」
野田は平然と続ける。
「幽霊やお化けは夏にしか出ないだろ? すべてってわけじゃないが、それにしても夏の怪談話が多い。なぜだ?」
「そりゃ、暑い夏は怖い話を聞いて涼しくなりたいんですよ」
「お盆が関係してるんじゃない? ご先祖様が帰って来るって話が、幽霊話になったとかーー」
さっきまで不満気だった生徒たちが、わいわい勝手な意見を言っている。
「幽霊やお化けはその電車に乗ってどこかに帰っていくのかもしれないな」
「えーー、ありえない」
「じゃあ、お盆に送り火焚いても帰ってないってこと?」
文句を言いつつ、楽しそうな会話は続く。
「いや、俺もまさかと思ったさ。でも、一度だけ、その電車を見たことがあるんだ」
野田が真面目な顔で言う。
「先生、だめだめ。信じませんよ」
「そうそう。受験生に肝試しでもさせるつもりですか?」
ドッと笑い声が起こり、クラス全体が和んだ。一瞬、受験のことが皆の頭から離れた。
そのタイミングでチャイムが鳴り、授業が終わった。
「おい、どした? 真面目な顔して」
圭祐は隣の黒田に肩を叩かれる。
圭祐は、幼い日のあの電車のことを思い出していた。
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