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4. 夏守駅
夏守駅の待合室には誰もいなかった。
夏守駅の駅舎は昭和に建てられた古い木造で、高い天井は太い梁がむき出しになっており、冬場に焚かれるストーブの煙で黒く煤けていた。
車通勤が当たり前の田舎で電車を使うのは、中高生か高齢者、それに僅かな観光客くらいだ。
待合室にはベンチのほか、電車待ちの間に学生がおやつを食べたり勉強ができるよう四人掛けの木のテーブルも二組置かれていた。
腹が減っていたが売店は七時台の電車が出発すると閉店するので、仕方なくテーブルに参考書を広げて続きをやった。
しかし、活字を追っていくうちに、ウトウトとしてしまう。
眠っているのになぜか意識があり、自分の周りでたくさんの人が歩く気配がした。
目は瞑っているのに見えているのだから不思議だ。
下駄を履いた一本足、浴衣を着た小さな子供はあの時ののっぺらぼうか、そしてろくろ首の女もいた。皆、せわしなく動いていた。
やがて、自分の前に誰かが立つ気配がした。緑の髪のあの綺麗な男だろうか。
「おい、柿崎」
名前を呼ばれ、圭祐は目が覚める。
「野田先生」
目の前には、日本史の野田が立っていた。
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