3人が本棚に入れています
本棚に追加
第6話 案内
場所「赤の城 各所」
翌朝、十話子達は城の案内をされていた。
主要な設備は昨夜教えられていたが、細かいところはまだだったためだ。
朝といっても、太陽はすでにのぼりきっていたため昼前といった方が正確になる。
案内役の女性は、長身の女性だった。
様々な言語や文化に詳しい、外交官。
物腰柔らかで、十話子達にとっては話しやすい相手だった。
そんな者に従って、城を歩く。
そこで働いている者達は、十話子達と鉢合わせした時、みな足をとめて頭を下げた。
それは、異世界から召喚された勇者への敬意の表明だった。
十話子達の身分は、そうとう高いらしい。
城の主しか入れない場所でも自由に行き来できるらしかった。
「先程の図書館やこちら宝物庫などは、普通の者は入れないんですよ。何か必要なものがある場合は、貸し出していただけます」
宝物庫の中へたどり着いた案内の女性は、そう言って丁寧に説明する。
山田がその話で、鼻息を荒くした。
「へぇ、俺たちの世界にはない伝説の鉱石でできた武器とかもあるのかな。ヒヒイロカネとか。竜の牙とか、ユニコーンの角とか、エクスカリバーとかもあったらいいな」
「なにそれ、知らな~い」
「はいはい、ラノベ頭~」
クラスメイト達があれこれ言い合っている端では、なぜかカガリが女性を口説いていた。
それは、カガリの悪い癖だ。
カガリはかなりの女好きだった。
「今までにあったことがないタイプだ。 俺はあなたの方に興味がありますけどね。御趣味は?」
それを見ていたホノカが、カガリの腕をつねる。
「もうっ、お兄様! 恥ずかしいです!」
「いててて! 腕の肉がっ、ちぎれる!」
十話子の方は、厳重に鎖で閉ざされた奥の扉が気になった。
扉の前には、見張りらしき兵士が二人立っている。
十話子と視線があったら、その二人は愛想のいい笑みを返した。
山田ほどではないが十話子にもそれなりに異世界のものには興味があった。
そにため、どんな宝物があるか後で聞いてみようと思っていた。
案内の途中、最後尾で十話子がぼんやり歩いていると、横に並んでいた女生徒がちらちら背後を気にしはじめた。
十話子は、その行動を不思議に思った。
「なんか誰かに見られているような。それもすぐ近くで」
しかし、女生徒の視線の先には誰もいない。
幽霊でもいるのかと十話子は思った。
「邪神があばれているというらしいから、その犠牲者とか?」
「ひょっとしたら、いるのかもしれないよ」
「なにそれ、怖い」
クラスメイト達がそんな話をし始める。
それを聞きつけた案内の人間が、笑った。
「幽霊なんて迷信ですよ」
異世界でも幽霊は存在しないものとして、扱われていたのだった。
勇者召喚などをする異世界でも、幽霊が迷信扱いされている事に、十話子達は意外な顔をした。
最初のコメントを投稿しよう!