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【1】ニューカステルム。
――――――ニューカステルム。
それは夜の城と言う意味の夜の街。夜の街と言っても稼働するのは15時くらいからが多い。多くの店が開店準備を初め、昼間カフェやランチを提供していた店がバーに様変わりし、夜の街ニューカステルムが賑わって来た頃。
ドンッダアァァン……ッ!!
まだ陽の沈みきらない夜の街で、ぶっ飛ばされて壁に激突し、崩れ落ちた哀れな男。
そして脚を勢いよく振り上げ、男を蹴り飛ばした俺は、ゆっくりと脚を畳んでおろす。
因みに、頭から被った猫耳付きベールの下から見える服装は、臍出しチャイナドレス風だが……。
俺は受け男子なのでスリットの下には七分丈ズボンを穿いている。蹴りあげても平気。破れない。伸縮性バッチリ素材でできている。
そして俺の後ろにはハラハラしながら見守る同じ店のSubの受け男子や、同じクラブだが管轄の違うSubの女子……いわゆる嬢と呼ばれるコたちがいる。
俺は彼ら彼女らと、開店準備前の合間に近くのコンビニまで行ってスイーツを買い込んで、回転前にみんなで食べるのを楽しみにしていたのに、せっかくのスイーツ気分を台無しにする……この始末。ほんっとどうしてくれようか。
なお、黒服たちにはこの任務だけは任せておけない。これは……スイーツ受け男子!スイーツ女子にしか分からない複雑なスイーツ心なのだ!!スイーツの境界があるのだよ!!だからこそ、自ら買いに行ったというに。
先ほど哀れにもぶっ飛ばされたDomの男をねめつける。けっ。まぁ、Subが出てきた時点でハッとした腐を愛するお友だちも多いのではないだろうか。
そう、ここは紛れもなくここはDom/Subユニバースの世界である。
つまりどういうことかと言えば。この世界には男女の他にDomとSubなどと言う特殊な二次性が存在しているのだ。
その他DomとSubどちらにもなれる稀少なSwitchもいるが、俺は未だ出会ったことがない。それくらい稀少な二次性なのだ。
最後にそのどれでもない多数派の性が、Normalだ。
比率で言えば、Dom:Sub:Normal:Switch=1:1:7(強):1(以下)
そしてDom/Subユニバースを簡単に説明するとDomは支配したい欲を持ち、Subは支配されたいと言う欲を持つ。
そのふたつの二次性は互いに互いを求め合い、Playと言う擬似支配を行うことで互いの欲求を満たす関係なのだ。
しかしDom/Subユニバースと言うと難しそうと感じたみんな、安心してくれ。本編で順次ちゃんと解説するから。何なら前話の初めてのDom/Subユニバースで用語解説もしている!
本編でもいろいろ解説していくからよろしくにゃんっ!!
そしてこの世界の特徴としては、ヒト族以外の多くの種族が暮らす世界だ。
ざっくり言うと大きく分けて7種類。ヒト族、獣人、竜人、妖精、エルフ、鬼人、ドラグニャーン。一緒に買い物に出ていたコたちの種族も様々だ。
因みに俺は猫の獣人。だからさっきの語尾に華麗ににゃんをつけてみたのだっ!ドヤッ!!
念のためだが、別ににゃんは俺の口癖ではない!でとかわいいから!だってにゃんにゃんかわいいから……!
――――――たまにサービスでにゃんをつけている。そしてにゃんにゃんでみんなハッピーになる。最高にゃん。
そして俺は猫獣人の中でも黒い猫耳しっぽを持つ。ベールの猫耳用の突起もそのためのものである。
さらに、SubでありながらDomを蹴り飛ばすという、二次性的下克上をやってのけた俺に、ならず者のDomがキッと睨み付けてくる。
「てめぇ……Subの癖に!Domさまに逆らうのか!」
――――――はぁ?あぁ、ぃやだねぇ。いくらDomには社会的地位が高く、権力財力てんこ盛りイケメンスペシャル丼が多いからって。こんな夜の街本格始動前にふらふらとニューカステルムを彷徨いて、自分はDomだからいいじゃんみたいな甘い考えを振りかざし、Subに絡んでくるやつぁ、Domの中でも落ちぶれた存在かもな。
ほんっと、性格も見た目も完璧なDomがいる傍ら、こう言うやつもいることは事実。
さらにはランクもそんなに高くなさそうなDomだ。
SubやDomにはランクがある。ランクは共に4つ。高い方からS、A、B、C。
ランクの高いDomはそれだけDomとしてのスペックが高く、ランクの高いSubはDomのスペックに対して耐性がある。
まぁ俺に簡単にぶっ飛ばされるようなこう言うDomは恐れるに足らず!
しっぽ巻いてとっとと去りなと言ってやりたい。
優秀な遺伝子を持つDom間でも、優秀だからこそ競争は特段激しいから、当然そこからあぶれるものも、落ちぶれるものもいる。
どの世でも、無常なことは無常なのである。
そして俺は、ゆっくりと息を吸い込んだ。
そして!一気に、吐き出す――――――っ!!
「おっ巡りさ~~ん!!こっちこっち!こっちです~~~~っ!この男、無理矢理この子の腕引っ張って連れてこうとした最低な誘拐犯だよっ!」
俺が大声を出して叫べば。喧嘩を嗅ぎ付けて来たのか、俺がぶっ飛ばしたからか、周囲に集まってくれたうちの誰かが呼んでくれたのか……青を基調とした制服姿の警察官たちが走ってくる。
そして腕を引っ張られた仲間のSubの受けちゃんが俺の隣でこくん、こくんと頷く。
恐かったよね。仇は俺がうってぶっ飛ばしたから安心して!!
そして駆け付けた警察官たちは……。
「何だって?ひどいことしやがる」
「そりゃぁ、大変だなぁ」
「Subに乱暴働くたぁ、Domの風上にもおけないな」
屈強な警察官たちがDomのならず者を手慣れた様子で拘束してくれる。まぁ、こう言う街ですから。
しかし、ぶっ飛ばされても威勢のいいならず者はと言えば。
「おい!離せよ!俺はDomだぞ!!」
そう警察官たちに吠える。
吠えれば許されるとでも思ってるのか。
今アンタを取り押さえている警察官の中にもDomはいるのだが。
「はいはい、そうかい。それはわかったけど、あんた状況分かってる?悪いけどね、あんたが手をだしたのは、ウォンさんの店のコだよ」
警察官のひとりがそう告げると、ならず者のDomの顔からサアァッと血の気が引いた。
やはり、うちのオーナーに比べたら何でもない小者であったか。
「いつもご協力ありがとうね。簡単に事情を聞いてもいいかな、ファトマちゃん」
俺の名前と顔を知っている警察官は獣人だった。まぁ俺は獣人の中でも有名だとはいえ……他の種族の警察官もだいたい俺のことは知ってる。
ぃ、言っとくけど、俺が悪いことばかりして捕まってるからじゃないぞ?俺は健全です!
「ファトマちゃんがいるのに手を出すとはバカなやつねぇ」
そして一緒に調書を作っていたエルフの女性警官が呆れたように笑う。因みにお姉さんが美人だからってら腕を引っ張ろうとしたら、背負い投げの上で腹にエルボーで仕留められるゾ☆前に逮捕劇見かけたけど凄かったー。
テレビにも出演してるからね!夜の街の警察密着番組!俺、あれ好きなんだ~~。
「ファトマちゃんのあの見事な蹴りを食らうたぁ、不憫なやつだ」
他の警察官たちも、仲間もクスクスと苦笑する。まぁ、俺の華麗な蹴りは夜の街でもSubの間でも有名ですから。もちろんこれは、社会的弱者なSubで、非力な受け男子の正当防衛である。
警察官に被害にあったコと事情を説明したあとは、何かあったら店に連絡すると警察官たちに説明され、俺たちは店に戻ることにした。まだまだ残暑が尾を引く季節。油断するとスイーツも溶けちゃうしね。危ない、危ない。
さて、前座が長くなってしまったが……早速行こうか。俺たちSubの踊り子が舞う、夜の街ニューカステルムの華、クラブ・ステルラへ。
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