【2】猫の踊り子。

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【2】猫の踊り子。

――――――――クラブ・ステルラ。 星と言う名の付くクラブのステージでは、キラキラとネオンライトのような光が舞う。 そして煌びやかな衣装や宝石を纏う踊り子たちが華麗にステップを踏み、見事なターンを決める。 俺はいつもの通り頭に猫耳型のベールをかけて、顔があまり見えないようにしながら……共に舞う踊り子たちを見守りながらも、自身の踊りのステップを踏んでいく。 ――――――さまざまな種族がが暮らす世界。 様々な種族の踊り子たちが舞い、舞う順番待ちの踊り子たちはホールを巡りながら接待をしたり、客に同伴してお酒を楽しんだり。 うまく舞い、注目を集めれば客からチップをもらったり、ドリンクをごちそうになったり。割とハマると楽しいよ~~!この世界。 夜の店では酒はあってもタバコは厳禁なんだよね。吸うなら喫煙ルームで! 火災防止のためにも喫煙は所定の場所で。これしないと消防署に怒られるからマジで! 夜の街でね、一番恐いのはお巡りさんでも、元締めのキレイなお兄さんでも、貫禄あるヤのつくおやっさんでもありません……! それは……。 ――――――――――消防署のおじさんです! 消防署のおじさんがね、一番恐いの!夜の街でドンパチやってお巡りさんに連行されようが、事件揉み消す恐いオヤジがいようが……。 消防法守らないとマジで恐いから!お巡りさんより恐いの!お巡りさんはまだ人情派とかいるけど、ちゃんと話聞いてから手錠かけてくれるけど! 消防署のおじさんマジで容赦ないの!怒ったら放水ホース二刀流で襲い掛かってくるから!襲われたらひとたまりもないから絶対、逆らっちゃダメ――――――――ッ!!! ※夜の街にも個体差があります。 ※消防署のおじさんにも世界差があります。 因みに吸ったあとは喫煙ルームのとなりに強力消臭魔方陣があるので使用推奨。魔法あるんだよねぇ、この世界。便利すぎ。あと肺もちょっとキレイになるからオススメ。 そしてステージやショーの合間にも休憩タイム挟むから、一服したいひともトイレに行きたいひとにも優しい。 やっぱり吸うひとにも、吸わないひとにも優しい社会……大事だよね!どっかの異世界に、そんな優しい夜の街があったって、いいじゃっないぃぃ――――――――っ! 消防署のおじさんも、ちょっとは優しくなってくれるって、俺、希望は捨てないぃぃっ! 希望のステップ、ほい、にゃっ、にゃ~~っ! ――――――っと、その時だった。 バタンと踊り子ちゃんのひとりが華麗にこ~~け~~た~~~~っ!!あ゛~~~~~~っ!!! あ、あれは……!まずい!! こんなところで、ステージで踊っていてこけたら……。 あぁ~~~~っ!あれ恥ずかしい~~~~~~っ!超ハズカシイ――――――ッ!!! 俺も新人の頃よくやったぁ~~っ!俺も気持ちわかるぅっ!超わかるうぅっ!あれ、超恥ずかしいの! でも笑ってバカにしたやつぁぁ、客でも足蹴りじゃあぁぁっ!受けちゃんを傷付けるやつぁ、許せん!まぁ、慰めるためにチップをくれる客もいる。チップをくれる優しい客はありがたい。俺もそれに励まされた経験もある。 だがこう言う商売だ。うまく舞い、客を喜ばせるに越したことはない。それでチップをもらうほうが嬉しいしね。 他の踊り子ちゃんたちがステージを繋げる中、華麗にこけた踊り子ちゃんに手を差しのべ立ち上がらせる。 踊れるかどうかを確認して、ほんにんは大丈夫と頷く。念のため外傷がないことを確認して、ステージの踊り子たちの輪の中に自然に合流する。 さて、これから各踊り子ちゃんたちによる、ステージのセンターで踊るソロパートが始まるよ! ソロ当番のコ以外は後ろで盛り立て役のバックダンサー。ここから順番にソロパートを踊っていく。 せっかくだし……みんなのソロパートを見ながら、この世界を彩る各種族を紹介でもしようかね。 最初はヒト族。言わずもがな、人間。俺の前世の地球人にもお馴染み、何の変哲もない人間である。そう俺は転生者!こんなタイミングだけど言っとくよ!俺、転生者あぁぁっ! 因みにうちのヒト族の踊り子ちゃんはカスタネットを持ちながら舞っている。んーと、あれは、……フラメンコ……?でもあのカスタネット、地球で見たものよりもだいぶ巨大で……踊り子ちゃんの顔くらいの大きさなんですけどおぉぉ――――――――っ!? チガウ、俺のイメージするフラメンコとは確実にチガウゥゥゥッ!! まずあれ、本当にカスタネットおぉぉっ!?指通すところ、カスタネット本体の裏!しかも、指4本入るバンドついてるし!――――――話し合いは、まずはそこからだ!踊りのセンスは抜群だけどね!! 続いて獣人。え、速すぎるって!?甘いな、曲は待ってくれねぇんだ!さくさく行こう!そう、さくさく……っ!! てなことで、獣人だが……ケモ耳しっぽ!ふにふにケモ耳、もふもふしっぽパラダイス!無論個人差あり。つるつるしっぽもある! 具体的には猫耳しっぽを持つ猫獣人の俺や、狼獣人、熊獣人、つるつるしっぽだとトカゲちゃん獣人なんてのもいる! うちにもトカゲちゃん獣人の踊り子いるよ~!ちょーかわいいのっ!みんなー、チップよろしくね~! さらには獣人は今も新種や亜種が発見される不思議種族だけど、みんな自分の本能は知ってるのは便利だよな。因みに俺は、ねこキックが得意だ。踊り子だもの。 キックをえいやっ! そのままターンっ!ふっさふさ猫しっぽが揺れると客席から歓声が湧く。 みんなケモしっぽ好きだねぇ。わかるけど!!わかりみ深いけど!! さらに魔法が使えるものから、特殊能力を得るもの、武勇が優れるものなど多種多様である。 俺やトカゲちゃん獣人は踊りが得意。いや、それは単なる職業だから、技能的に身に付けているだけだ。 そしてトカゲちゃん獣人に似ていても、違う種族。それが竜人である。 竜人は言葉の通り、竜の顔ーーと言うほどコアな種族ではなく、人間の身体に竜の角、翼、尾、珍しいところで言えば先祖返りで鱗を持つものもいる。彼らは特に武勇に優れ、場合によっては魔法も使える。たまに踊りながらキラキラした魔法を交えながらやってくれるので、それはそれで盛り上がる。 俺が踊りながららも合図を送れば、踊り子たちは竜人の踊り子に道を開け、彼は魔法で水のベールを作り出し、まるでオーロラのように七色に発光させて華麗なターンをキメ、観客から多大な拍手を得る。 続いてセンターに立ったのは妖精の踊り子ちゃん。妖精族とも言われる珍しい希少種で、背中に地球でもお馴染み、フェアリーの羽根を持つ。あと魔法も使える種族。 大きさは地球のフェアリーサイズではなく、ヒト族となんら変わらない。まぁ、小柄なコは多いけどね。 そして珍しいと言うこともあり、彼の登場にまた一段とホールが湧き立つ。 珍しさから自然と注目を集めるからこそ、それに負けないように軽快に、そして複雑に編み出される妖精族伝統の踊りをアレンジしたステップは、多分ここでしか見られないだろう。 そして次エルフ。エルフは地球でもお馴染み、美男美女揃い!耳が尖っており、長い。地球ではファンタジーの世界で長命種のイメージが強いが、この世界のエルフは青年期が長く、寿命がせいぜい120歳ほどの種族。それでも充分長寿なのだが、ファンタジー世界お馴染みの500歳とかはマジでない。冗談で地球のエルフ像を語ったら、ドン引かれた。何言ってんのと。いいじゃんっ!エルフは全地球人の夢でしょうがぁっ!! あぁ、あと魔法と弓が得意なひとがおおいな。 続いて鬼は、頭に和風鬼のような角が生えている種族。鬼術(きじゅつ)と言う彼ら独特の術を操るのだ。彼も鬼術(きじゅつ)を使いながら花の幻影を見せつつ見事なステップをキメていく。 みんなそれぞれ種族特有の踊りをセンターで交替に踊って行く。 因みにひとりだけ目立とうと他の子を押し退けて踊るのは禁止だ。 踊りたい、注目を浴びたいのは同じ。だから順番にセンターで踊り、それ以外はみんなで華麗なショーを作り上げる。どの踊り子にもファンはいるし、みたいひとはみたいのだ。だから!元日本人ならではの主張を掲げた。【みんな、仲良く!!!】日本では幼稚園児ですら知っている、でも大人になったら忘れちゃうひともいる。だけどこれがこの店のルール。 みんな、仲良く!! みんなで曲の最後のポージングをキメ、ホール中から拍手が溢れる。 最後にみんなで礼をキメれば、次のステージのコたちと入れ替わり、そして今踊った俺たちは飲み物休憩したあと、ホール担当に移るのだ。 一応ステージでこけてしまった踊り子ちゃんは、店の医療スタッフに診てもらうよう指示を出したあと、ふと思い出した。 そう言えば……さまざまな種族の踊り子がいる中、ドラグニャーンだけはいないんだよな。 それは踊り子たちがSub(サブ)であることと関係しているんだけど、それはおいおい……。
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