【5】縁の下の力持ち。

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【5】縁の下の力持ち。

――――――――さて、厄介なのが片付いたところで……。あ、ステージもさすがに中断していたか。 せっかくだからとマネージャーに素早く調整案を出す。短めではあるけれど、曲目を変更して中断したキャストたちの踊りを再開させる。 その後のショープログラムを変更して各位に知らせる。しっかりバックヤードにプログラム変更を書いているから、踊り終わった踊り子たちも飲み物休憩時に見られるシステム。ホールに出てるコたちには俺と黒服が手分けして回って声をかけておく。 どうせ俺に指名が来ることはないしな。こう言う役割の方が、わりにあってるかもだし。 俺のステップに興味を持つ客もいるものの、左目の下から頬にかけて、生まれつき(あざ)があるため、それを見るとDom(ドム)は自然と遠慮してくる。 まぁ、Play(プレイ)のあてならあるから、別にいいけれど。常連さんは特に、俺が指名を受けないことを知っているから、無理に誘うこともないし、一緒にお話をするらくらい。俺が他のコたちの面倒を見てるのも知ってるから、Play(プレイ)の指名などに困るとむしろ、頼られるし。 その場合はキャストとの間を取り持ったり、客の希望を満たせるキャストを紹介したりとさまざまな面でサポートする。それがチップにも繋がるのだ。 そして急遽プログラムを変更したものの、会場からは拍手が溢れる。よかった。何とか元の盛り上がりに戻ったかな。 俺の役目は踊ること、あとは同じ踊り子やボーイをこなすSub(サブ)たちの用心棒も兼ねること。 他に不躾なDom(ドム)がでないかどうかホールで飲み物を配りつつ、会場に目を光らせる。それも俺の役目である。 まぁあの騒動の後にやらかす客はいないだろうが……。 「このPlay(プレイ)はダメかい?」 おっと、あちらでは新人の踊り子ちゃんーー妖精のティオくんがDom(ドム)の客と交渉しているところか。 踊りを頑張っていたから、客にも興味をもってもらえたらしい。さっそくPlay(プレイ)の予約とはありがたいことである。 俺はささっと2人のもとへと駆け付ける。 「お客さま、この子はまだ新人でして、Play(プレイ)経験が浅いのです」 もちろんSub(サブ)の先輩とDom(ドム)スタッフでPlay(プレイ)実演を見せたり、Play(プレイ)の練習を兼ねて俺やベテランの踊り子が付き添いながらPlay(プレイ)の練習をしてはいるけれど。 まだまだ客との難しいPlay(プレイ)は無理だろう。最初は、優しくマイルドな方がいい。 この常連さんなら無理なことはしないだろうし。他のコからの評判もよかったはずだ。Sub(サブ)Normal(ノーマル)は非会員でもお試しで来られるが、Dom(ドム)だけは会員制でもある。会員リストはチェックしているし、その中でも問題ない。 ――――――さっきの不躾なDom(ドム)は新参の客のはず。しかし会員証は取り消されるはずだし、うちには出禁になるだろうから問題ない。まずは目の前の常連のお客さまである。 「ですので基本のPlay(プレイ)コースでお試しいただけませんか?」 そう言って、Play(プレイ)メニューを見せながら、ティオくんが担当できるであろう基本コースを何点か提案する。 「うーん、そうなのか。だが、ファトマちゃんがそう言うなら。Play(プレイ)に慣れていないSub(サブ)に、無理なPlay(プレイ)をするなんて、Dom(ドム)の面汚しだからね」 「ありがとうございます」 本当に、こんな紳士的なDom(ドム)ばかりならありがたいのに。 「それじゃぁこのコースを選ぶよ。可能Play(プレイ)についても同意しよう」 「ありがとうございます。ではこちらに署名を。Play(プレイ)ルームの予約もしておきますね」 「あぁ」 俺が書類処理と、黒服にPlay(プレイ)ルームの手配をお願いしていると、Dom(ドム)の客がお客がついて緊張しているティオくんに声をかける。 「安心してくれ。Dom(ドム)Sub(サブ)間のランクもさほど差異はないようだし、もし何かあったら、今度は私がファトマちゃんに蹴り上げられてしまうからね」 はははと苦笑いをする常連のDom(ドム)に、ティオくんも思わず苦笑する。相性は……悪くはないみたいだな。安心、安心。 「さっきの蹴り、なかなかだったよ」 そう言って常連さんは、ティオぬくんだけではなく、俺にもチップをくれた。この店のチップは些か特殊で、お菓子の形をしている。もちろん食べられないが。腰につけたチップ受け取りホルダーに収納して、営業が終われば回収して、そのチップの分だけ給料に反映される仕組みである。もちろん基本給もあるけど。 せっかくだからいただきますが…… ティオくんに、Play(プレイ)が決まったお客さまへのサービスドリンクをお出しするよう指示を出し終われば。他の踊り子ちゃんたちに声をかけつつも、客たちと談笑したりしながら注文を受けたり、配ったり、相談に乗ったり。 しかも今日は大捕物があったので、その分チップをいっぱいもらってしまった。Care(ケア)を受けたリオくんも無事に回復したそうで、Dom(ドム)のスタッフと顔を見せに来てくれた。 しかし、今日は用心して休むしかないな。一度不躾なGlare(グレア)で体調が悪くなったわけだし。Dom(ドム)はもう少し、自分のGlare(グレア)に責任を持って欲しいものだ。 「メニューから好きなの選んでテイクアウトしていいよ。俺につけといていいから」 「い、いいんですか!?」 リオくんが驚くが……。 「ここはファトマさんに甘えておいで。猫神殿からのご利益もあるかもしれない」 と、Dom(ドム)スタッフ。 「えぇ?にゃんにゃんにゃ~ん」 これはちょっとしたサービスである。 「猫耳萌えっ」 リオくんが無事にキュンキュンしたところで、Dom(ドム)スタッフも「いいもんもらったな」と苦笑する。今日はリオくんを寮まで送っていくと言うDom(ドム)スタッフとリオくんに手を振りつつ……。 「でも変なことしやがったらケツバットな」 と、笑顔でDom(ドム)スタッフに告げれば。 「し、しませんよそんなことぉっ!ファトマさんったら!ファトマさんのお仕置きだけは嫌すうっ」 Dom(ドム)なのに尻を抑えてあたふたDom(ドム)スタッフ。彼はDom(ドム)だが、Dom(ドム)×Dom(ドム)の受けの素養があるのではないかと常々思っている。 苦笑しながら楽しそうなリオくん。元気が戻ったようで何よりである。 さて、俺はホールに戻るか。 今日はこれからショーもあるから。張り切らないと。完全にホール従事をキメ込みながら踊り子ちゃんたちを見守りつつ回っていたのだが。 「君がいい」 「――――――はい?」 珍しくオーナーが接待していると思って飲み物を運びつつちらりと見れば。 オーナーが接待を担当していた青年が口を開いたのだ。
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