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【6】運命の出会い。
このクラブ・ステルラのオーナーはもちろんDomである。
シーザー・ウォン。それがこのオーナーの名前。ファミリーネームのウォンは【王】ではない。どちらかと言うと【翁】に近い文字。
もちろんこの世界の文字は地球と違う。共通語はアルファベットみたいな文字だが、オーナーの血筋の起源である東国の文字は漢字のようなもので、それで表すと【王】と言うより【翁】なのだそうだ。
そのせいか、お店でもプライベートでもチャイナ服のような、立襟で右に打ち合わせがある長衣を着ている。
その左右にはスリットが入っており、長衣の下にはゆったりとしたズボンを履き、靴はぺたんこ靴である。
そして黒髪に、切れ長の紫の瞳。俺の黒髪はは東国系ではないが、東国には黒髪が多いのだとか。もちろんそれ以外にも黒髪はいるけどね。
さらにオーナーは……エルフ特有のの尖った長い耳を持つ……。エルフなのに、東国。いや、東国風の世界観にエルフがいたっていいじゃないか。
なお、なんちゃってヨーロッパ風世界観の森に住むエルフは主に金髪碧眼。
この店のある歓楽街は異世界ファンタジー歓楽街。地球のいろんな国の文化が混ざったような場所だ。
交番のように日本らしいところもあれば、香港の所々にビルや看板があるようなイメージを持つ区画、マカオのようなカジノタウンのようなところ、ラブホ街は……日本かな。ヨーロッパの歓楽街はよく知らないが、建物がなんちゃってヨーロッパな部分も一部ある。
だからむしろここは種族も生まれた国もごっちゃに入り交じっている。しかし、歓楽街ってのもあって、オーナーも含めた裏の元締めたちがまとめあげることで、消防署のおじさんにキレられて二刀流ホースで怒られないように、夜の街のルールを保っているのである。
だからオーナーは地球でイメージされるエルフっぽい見た目ではないし、世界的にも少数派な見た目のエルフだと思う。
そしてそんな黒髪エルフ・オーナーに接待されている客もDom。
イケメン、ハイスペ、スパダリの御三家特典を持つとされる、Domらしいイケメンである。あとスパダリ臭もハイスペ臭もしやがる……。
さらさらなダークブラウンの髪に、ツリ目がちな印象的な琥珀色の瞳。
少しだけ夜の街の危険な匂いを感じつつも思う……。
――――――顔だけは、超タイプである。いや、どうでもいいか。俺はどうせ指名は受けない。彼は客。オーナーが接待するほどの客。
失礼がないようにしなければ。
そして彼の側で控えている護衛と見られるDomの男にもちらりと目を向ける。黒髪黒目であるが、オーナーとは顔立ちが異なる気がする。オーナーはアジアンビューティ風だが、彼の顔立ちはどちらかと言うとヨーロッパ風黒髪美人。
彼も美人ではあるがタイプではない。やはりオーナーのこの客の顔は……。
タイプすぎて頬にやけそう!なるべく目を合わせないようにベールをくいっと深くかぶる。
この世界の神々は性に寛容で、男女だけではなく、同性の恋愛、婚姻も歓迎してくれる。だから男同士であることに、抵抗などはほぼない。俺前世から今生も腐男子だ。腐教に余念はない。猫神さまも応援してくれているので、昼間の仕事にも支障はないし。
しかもこの世界、何でもありなんだ。なんなら同性でも子孫を残すことができるからな!!ほんとっ!とんっでもな世界っ!!ただし種族が違えば子は授かりにくいんだよ、うまい話ばっかじゃない。
その代わり……DomとSubの組み合わせならちょっとだけ子を授かれる確率が上がるので、DomとSubのカップルも同性、異性にかかわらず歓迎される。
――――――まぁ、それはあくまでも各神々を祀る神殿の考え方。
一般民衆の中には、Domに選ばれるSubに嫉妬したり、PlayでのSubの立ち位置からSubを見下したり奇異の目で見るやからもいるがな。先程も紳士的なDomもいる傍ら、店を追い出された不躾なDomもいた。
オーナーは接待をしているものの、俺が対応するだけで済んだから出てこなかったけれど、把握はしているはずだ。逆に言えば、オーナーが出てくるまでもない客……。Domである以上、社会的地位に恵まれたものが多いはずだが……そうでもないと言うことはだ。俺はあのDomを足蹴りにして問題なかったと言うことだ……!ざまぁ~~っ!ドヤァ――――――っ!!いよしっ!!
――――――とは言え、このDomの客はオーナー自ら接待だなんて。今まで見かけたことはないし、会員名簿でも見たことがないような……。一体どういう客なのだろう……?
「君もSubの踊り子だ。私は君を指名したい」
そしてその客のDomから再び放たれた言葉に、俺は唖然とした。
――――――は……?はあぁぁぁぁ――――――っ!?
マジなの!?やっぱりマジなのそう言う意味いぃぃ――――――っ!?
俺はPlayのあてなら他にあるし、ここで指名を受けたことなんて一度もない!
なんせこの顔じゃぁ誰も相手にしないし……。興味本位で手を出そうとするDomは今ではだいぶ減ったがオーナーからストップが出るのが常である。それには俺の昼間の仕事が関係しているのだが。
オーナー!今回も、ストップかけてくれますよね!?ハッとしてオーナーと目を合わせれば。
にっこり。
へ……?オーナー、何でそんなににっこりしてんのぉっ!?そこは、俺は客をとれないって言うところでは……!?
「ファトマ、ヒューイさまは大切なお客さまだ。くれぐれも粗相のないように」
はいいぃぃぃぃ――――――――っ!?オーナーあぁぁぁぁっ!ちょまっ!冗談だよね!?冗談でしょ!?まさか、裏切り!!?
「ファトマ。私のことはヒューイでいいよ。どうぞ、よろしく」
ぐはっ。ヒューイさまとやらまでにっこり微笑んで……っ。
あ、そうだっ!
俺はシャンパンを乗せたお盆を近くのテーブルに置くと、さっと猫耳ベールを頭から外した。
「俺は、この通りの顔ですので」
こうやって断れば……っ!と言う俺の作戦を見抜いたのか、オーナーが『こらっ!』と言わんばかりに睨み付けてくる。い、いいだろぉっ!?先に裏切ったのオーナーじゃないかっ!!
「この通りとは?」
しかしヒューイさまは歯牙にもかけぬように薄く微笑む。
「えと、痣が、あります」
東国ゆずりではない黒髪の上にぴょこんと生えた猫耳、そしてその下のツリ目がちの金色の瞳、瞳孔は獣人らしく縦長。さらには後ろからは黒い毛並みがふわっもふぁさ~なしっぽが生えている。
パッと見、俺はただのSubの踊り子だ。しかし問題は……左目の下から頬にかけてアザがあることだ。
「にゃんこに痣があるからといって、かわいがらぬ猫好きなんていないさ」
ドテッ!!そりゃぁ、俺だって~~っ!にゃんこは大好きだ!だからこそ、どんなにゃんこだってかわいがってみせる!!
「むしろにゃんこに痣をつけたやつを、徹底的にミンチにしてくれる」
キラッ。
ひぇっ。恐ぇよっ!!すました顔で何つーこと言ってんの!こやつ……過激派のにゃんこ萌えか……っ!!
「お……俺のは生まれつきですし。それに、俺はにゃんこでは……」
猫獣人ではあるけれど。にゃんこっぽいとこあるかもだけど。
「その猫耳も、もっふもふしっぽもかわいいよ」
「にゃんっ!?」
褒められなれていないからか、思わぬところで反応してしまう。
か、かわいいとかさらっと普通に言わないでよ、もう。
いや、まぁ黒いふにふに猫耳と、通常の猫獣人よりも太くもっふり長めな優雅なしっぽは……自分でもお気に入りなのだけど。もっふもっふ。さわり心地も最高。夜はしっぽ抱き枕にして寝るのがお気に入りですよ!?
「私は君を指名したい」
ヒューイさまの横ではオーナーが……。
『絶対にノーと言うな』と言う圧をかけてくる。あれはGlareとは違う、営業的な……圧うぅぅっ!ちゃんと切り替えができるオーナーすげぇ……。Domの鑑だわ。
――――――って、ソウジャナイ。ソコジャナイ。そこも大事だけども……、今はっ!!
うぐぐぅ……っ。仕方がない。仕方がないから、受けるけど……。Playルームに入ったら、絶対ヒューイさまに伝えなきゃ。伝えれば何とか……Playは見送ってもらえるかもしれないし。
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