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正直に言えば,弟の帰りが遅いと言われたときは,心配な気持ちになった。
光星が男とはいえ,母似の優しげな顔立ちに心惹かれる女たちを洋助は何度も見てきたものだ。それに幼いころ慕ってくれていた光星を,兄として気に掛ける気持ちもあった。
だから洋助が嫌だったのは,いつも自分ではなく弟ばかりを可愛がる母その人だった。
洋助は受験生だ。しかし、母はそんな洋助が補導される心配はしなかった
彼女は昔からそうだった。自分に似た光星ばかり可愛がり,父に似て表情の乏しい洋助に不満を漏らしてばかりいた。
母は洋助の寡黙さを見て,自分が不十分な子どもを産んだのではと怯えていたらしい。 ひどく差別的で失礼な話だ。
そんな中,生まれのたが2歳下の光星だ。母は洋助に何度も,何度も,当時の喜びを聞かせた。そして洋助は手のかからない子で不満だったと。一方で光星がいかに子供らしく愛らしかったかを楽しそうに話してもいた。
幼い頃からそんな話を聞かされれば,自然と嫌気がさしてくるものだ。洋助は母だけでなく,弟と話すのも苦手になったのも自然の流れだろう。
一人になると冷静になる。洋助少し迷ったが,弟を迎えに行こうと考えた。財布だけをポケットに入れて部屋をでる。
足音で気づいたのだろう、ちょっと!と、母が近づいてくるのがわかった。
母が余憤さめやらぬようすで口を開く。また小言を聞くのか。そう思った瞬間,家の扉が開いた。
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