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食事の時は母が一方的に話していることが多い。洋助が自分から話さないこともあるが,下手な相槌をすれば,母が烈火のごとく怒るのが一番の理由だ。
適当に聞きながら,うん,うんと頷く。
今日はたまたま洋助の好きな料理で,ご飯に染みた味噌がおいしい。母に不満は大有りだが、料理はおいしいと言える。そう思ってはいるが気恥ずかしく,結局1度も言えていない。
話の中心は言うまだもなく弟についてだ。塾でも成績がいいとか,お隣の佐藤さんちの娘が光星を気になっているらしいとか,誇らしげにはなしている。
また,塾だけじゃ受験に不利だから,家庭教師でも雇おうかしらと悩んでいる様子だった。週4日も塾に行っているのに、まだ勉強させられる弟の困り顔が浮かんだ。
「光星は優秀だから,大丈夫じゃないか」
「それもそうね。」
母がにこやかに笑う。
「そういえば,あなたはどうなの」
弟はこんなに輝かしい日々を送っているのに,あなたは何ができるの,と聞かれている気分だ。実際そうだろう。
いつも通り,別に、と答えようとして,今日担任に褒められたのを思い出した。
洋助からしたら,あんな炎天下の中,年配の婦人を放っておくことこそ,どうかしてる。
だから感謝された時も自分が誇らしいとは思わなかった。誇らしい人とはもっと立派でいつでも正しい選択ができる人だ。
あんな小さな事で喜んでしまう自分とは違う。
他者評価はさておき、洋助は自分が陰湿な性格と思っている。だから、誇らしいとは、自身とは結び付かない言葉だと思っていた。
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