2.小判のありか

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2.小判のありか

 しばらくして、我が家に叔父と叔母がやってきた。  父と祖父の財産分与についての話し合いのようだった。 「兄さん。小判三百枚だって? すごいじゃないか。父さんも少しはいいことをしてくれていたんだなあ。兄弟三人で割り切れるかなあ?」 「何言うのよ。一枚ずつの値打ちが違うんでしょう? 換金してから分割すればいいわ」  そんな好き勝手なことを言っていた。 「でもさあ。部屋のゴミを全部処分したんだけど、小判なんかどこにもなかったんだよ」 「どこかに預けていたのかしら? 兄さん、遺言書は残ってなかったの?」 「さあ? 保険とか証券類は分けて封筒に入っていたからそれ以上は探さなかったんだよな。もしかしたら何かあったかも知れない」  父がそう言って、祖父の書類入れを引っかき回すと小さな封筒が出てきた。皆固唾をのんで出てくる紙切れを待った。出てきた紙には、定規を当てて書いたと思われる几帳面な字のアルファベットが並んでいた。 「ローマ字?」と叔母。 「いや、ローマ字にはなっていないよ。何語で書いたのだろう?」  父は叔父にそれを見せた。 「さあ、暗号じゃないかなあ。逆から読んでいくと文章になるとか、特定の文字、例えば『X』を抜くとローマ字になるとか。何か手懸かりはないのかい?」  思いつくままに皆がそれぞれのアイディアを述べた。何せ小判三百枚の行方がかかっているのだ。しかし、何をどう並べ替えたって読める文章にはならなかった。  僕は何年か前に祖父が大事そうに買ってきた暗号機を思い浮かべた。元のローマ字を一字打つと別の文字に変換され、電気接点の入ったダイヤルががちゃりとまわり、また次の文字が全然別の文字に変換される。どう考えてもあの暗号機がないことには解読しようがなかった。  父や叔父さんたちが散々知恵を絞り尽くしたところで、僕は祖父の暗号機の話を持ち出した。 「ええ、暗号機かい?」 「暗号だと言うのなら解読できる可能性があるんじゃないかなあ?」 「昔の日本軍やドイツ軍の暗号も解読されてたんだろう? 解読できるよ。きっと」  そんな楽観的な意見を述べた。 「その暗号機はどうなったんだい? 兄さん」 「さあ? 祖父のアンティークは全部まとめて引き取ってもらったからなあ」  僕は父たちが祖父の残したものを安易に捨てるような処分をしてしまったことが悲しかったし、あの暗号機にも本当はすごい価値があることを知っていた。そして、父たちは小判の行方にしか興味がなかったのだ。 「暗号機はもっと複雑だったよ」  僕は暗号機の動作するさまを説明した。  電気接点の組み替えで入れた文字が完全に入れ替えられること、そして、ボタンを押すごとに接点が収められたダイヤルが回転して完全に組み替えられること。そう主張すると、祖父の暗号書がさっぱりわからないことに根を上げていたのだろう。父がアンティークの売却先をショップに問い合わせてみることになった。  叔母さんは、クロスワードパズルの得意な従兄弟に一度チャレンジさせてみるといい、暗号書のコピーを取り持って帰った。
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