しんごう、しんごう。

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しんごう、しんごう。

 これはまだ息子が小学校一年生になったばかり、の頃の話。未だに思い出すと背筋が冷たくなるので聞いてほしい。  当時私は週に二日のパート以外、仕事というものをしていなかった。本当はもう少しお金を稼ぎたい気持ちもあったのだが、コンビニのパートというのは存外大変であまり精神的に余裕がなかったことと、夫の扶養の範囲内で働きたかったことが理由で控えていたのである。  あまり余裕のある生活ではなかったものの、その分主婦としては比較的時間があった方なのではなかろうか。世の中にはフルタイムできっちり働きながら子育てする母親もたくさんいるのだから。  そして、子供は最初から一人と決めていた。これは夫とも話し合ったことである。多分、私も夫も、兄弟姉妹と折り合いが悪かったことが大きい。家族内でギスギスする関係を作るくらいなら、一人の子供に目いっぱい愛情を注いだ方がいいだろうということになったわけだ。もちろん兄弟や姉妹と良好な関係を築けている家庭などいくらでもあるのだろうが、あくまで私達の考えであると追記しておく。  子供が一人。それも既に小学校に上がっているとなると、一番子育てが大変な時期は過ぎている。  私もそういう意味では心の余裕が持てるようになってきた時期で、特に最低でも週に一度は必ず息子と一緒にお買い物をすることにしていたのだった。我が子は男の子ながらお買い物が好きという珍しいタイプだったというのも大きい。理由を訊くと、“カラフルなお野菜とか、変な服とか売ってるの見るだけで面白いから”とのこと。――洋服売り場で、ただただじーっと女性物のスカートの模様を観察している男の子というのも珍しいだろう。変にうろちょろされないのは私も助かるところだが。  さて、ここまでが話の大前提。  息子は、赤ちゃんの頃からなんでもかんでも興味を持つタイプだった。  そして、大人が気付いていない新発見をすると、嬉々としてそれを報告してくるような少年だったわけだ。  そんなある日、彼が言い出したのがこれである。 「ママ!僕、面白い信号見つけたよ!」
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