風がなぶる

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風がなぶる

 いつも夏の初めに髪をばっさりと切る事に決めている。  今年はいつから夏なのかわからないほど暑かったので、5月の終わりにばっさりと髪を切った。  そこからは、夏の間は髪を結んでアップにして、暑さをしのぎ、冬の間は髪をおろして、寒さをしのぐのだ。  美容院での出費もばかにならないし、昔から黒髪のストレートが自慢の夏子はまだカラーリングするような年齢でもなかった。  ただ、今年は夏が長かった。  5月の終わりにばっさりと切った髪が延びる頃には、梅雨が明けるのか空けないのか、中途半端な感じでしばらく蒸し暑さが続いた。  髪を結んでアップにして過ごす夏だったが、今年は、アップにした後の首筋を、じりじりと日差しが焼く。  髪が汗でくっつくのも我慢して、首筋を隠す程度の高さで髪を結った。  ストレートの黒髪は量も多く、夏の間にも何度も髪を切ろうと思った今年だった。  でも、昨夜ベランダに風呂上がりで出たときに、結構強めの風が吹いてきた。結ばれていなかった夏子の髪は、右に左になぶられ、顔の前をもふさいだ。  少しの涼しさも感じられた。  くしゃくしゃになった髪を手でまとめながら夏子はようやく夏の終わりがやってきたのを知ったのだ。 【了】  
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