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─12─
夫妻はこちらを振り返る。
「お願いです。今日は、一緒に家に帰ってください」
「なんでそんなことを……」
「お三方を見ていたらわかりました。脱出しようとしていると。お気持ちはわかりますが、とりあえず今日は、私たちの言うことを信じてください」
俊さんの目は嘘をついているようには見えなかった。
俺は、篤人と福原さんの顔を見る。
「どうする?」と、福原さんが腰に手を当てる。
「兄貴……」篤人も俺に答えを求めている。
何か訳もありそうだし、あと一週間はあるんだ。今日じゃなくともいいだろう。
「わかりました、帰ります。でもまだ信用したわけではありません」
「それで構いません。ありがとうございます」
夫妻は安心した表情で、また前を向き歩き出す。
それにしても、よく逃げ出すことがわかったものだ。そんなに俺たちは挙動不審だったのだろうか。
暗く、薄ら寒い夜道を歩き、ようやく家に着いた。暗いせいなのか、行きよりも遠く感じた。
家の中に入ると俊さんが「お話があるのでソファに座ってください」と、俺たちの方を見た。
日奈さんは、やかんに水を入れ火にかけた。手を擦り合わし、寒そうにガスコンロの前に立っている。
「皆さん、引き留めてすみませんでした」
「どうして、引き留めたか教えていただけますか?」
「──はい」
俊さんは、俯き、テーブルに目をやった。
「会合の日は、必ず見張りが強化されるんです。以前、会合の後逃げ出そうとした人がいまして……」
意外だった。
「村に住んでいても、逃げ出す人がいるんですか?」
福原さんが、俺の言いたい事を代弁してくれた。
「稀に、今でもいるんです……」
「逃げ出した人って、どうなっちゃうんですか?」
日奈さんが持ってきてくれたココアを手に取りながら篤人が聞く。
「審判にかけられます。そして、連帯責任で、その家族も審判にかけられるか、何かしらの罰を受けることになっています」
胸糞が悪いシステムだ。こうして、村民を閉じ込めているのか。
「その審判ってなんなんです?」
俺は苛つきが抑えられず、語尾が上がる。
「審判とは、神が裁きを下します」
「神って……。じゃ、その審判ってもしかして、中世とかで実際にあったというあの『神判』?」
篤人が呆れたように、口元を歪ませた。
「そうです……」
それを聞いた篤人は鼻で笑った。
「理解できないのは当然です。ここに住んでいたって……」
ここまで話し、俊さんは少し考えているのか、話すまでに間が開いた。
「いいんじゃない? 話しても……」
日奈さんが俊さんの背中に手を添える。
「──村長は、神の使いなのです」
「はあ?」
思わずまぬけな声が出た。
聞き慣れない言葉に、脳が処理しきれない。
前かがみになりながら聞いていた福原さんは、お手上げだと言わんばかりに背もたれに寄りかかり、足を前へと放りだす。
「信じられないでしょうけど、未だに信じている人はいるんです」
──嘘だろ。あんな子どもでも騙されないような演技で、信じる人がいるなんて。
「信じることでしか、ここでは生きていく術はないのです。そうでなければ、心が壊れてしまう……」
日奈さんの言葉は切実だった。ここで生まれ、今まで生きてきた中で行きついた答えなのだろう。
「詳しくお聞かせ願いませんか?」
理解するつもりはないが、どうして神の使いとなったのか、なぜ、信じる人が未だにいるのか。純粋に関心が沸く。
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