神判

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─10─  前を向くと、ステージの袖から村長が現れた。相変わらず、地面に足裏全体で着地するような歩き方で、この席までペタペタと足音が聞こえ不快だ。背が小さいことも相まって、ペンギンのような動きだ。あまりの小ささに、後ろの席では豆粒ぐらいの大きさだろう。  そして、会場が割れんばかりの大きな拍手で包まれた。 「みなさん、こんばんは! 今週もこの日がやってきました。おめでとうございます!」 「おめでとうございます!」  おめでとうございます? 何がめでたいのだ? 「それでは、神をお呼びします」  え……今、な、なんて言ったんだ? 神と言ったのか? 「神よ、どうぞ私の体をお使いください。そして、私達に神のお言葉をお与えください」  会場内はと静まり返る。村長は両手を上に掲げ、口をパクパクさせ、何かを言っているようだ。 「みなさん、神が今、私の体に入りました、おめでとうございます!」 「おめでとうございます!」と、会場内が歓声と拍手で埋め尽くされる。 「それではさっそくですが、今週の高め合いをしてくれる方、決めたいと思います。まずは立候補する人、手を上げてくださーい」  村長が言い終わると同時に、鼓膜が破けそうな程大きな声が、会場に響いた。皆、必死に手を上げ「はいはいはいはいはいはい」と、死にもの狂いの表情で声を張り上げ続けている。その光景はまるで、子どもたちが授業中、先生にアピールしているかのようだった。子どもがやるから微笑ましいのであり、大人がやるとただの滑稽だ。 「みなさん、すごいですね! いいですよ! 高め合うことは大切なことです! しかし、残念ながら、一人しか選ぶことができません。神の助言を聞き、私が選ばさせていただきますね!」  村長はそう言うと、マイクを持ち、ステージから降りゆっくりと歩き回る。その間も必死に村民は手を上げ続けている。  すると、俺の隣に座る日奈さんの前で止まった。まさか……。 「じゃ、今週は井村日奈さんに決定します! おめでとうございます!」 「おめでとうございます!」と、また輪唱のように村民が後に続く。  立ち上がった日奈さんを見上げると、胸の辺りで合掌し「ありがとうございます!」と、満面の笑みで感動と喜びを表現していた。  ここへ来る前村民は、表情を失くした面のようだった。それがどうだろう。村長が登場した途端、今度は、目じりと口角がくっつきそうな程の笑みを張り付けている。  この光景は何かに似ている……そう考えていると、昔、何かで見た、ねずみ講やセミナーと酷似していることに気づいた。  村長が日奈さんをエスコートし、ステージ上へ戻る。 「神が井村日奈さんをお選びになりました。それでは、高め合いを始めたいと思いまーす!」  いちいち語尾を伸ばす癖が不快だ。 「じゃ、井村日奈さんからお願いしまーす!」  いったい、何が始まるというんだ……。
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