神判

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─13─  俊さんと日奈さんからは迷いが見て取れたが、二人は生まれてなかった、もしくは、幼かったということで、全て、両親や周りの人から聞いた話だということを前置きし、俊さんが話し始めた。 「村長は、星野孝志(たかし)と言う名前なのですが、今、その名前を誰も呼ばないことにしています。どうしてなのかわかりませんが、本名をとても嫌っているのです。以前、名前を呼び、機嫌を損ね、危うく神判にかけられそうになった方がいたと聞いています。それ以来、村民の間では禁句となりました」  星野孝志は、完全にこの村を私物化しているようだ。 「村長は六十歳になるのですが、奥様は四十五歳で、年の差夫婦です。お子さんは二人で女の子。今はお二人とも海外で暮らしています。噂では、もうずっと帰ってきていないようです」  意外だった。自分の子どもを海外へ行かせていたとは。もしかすると、子どもたちはこの村から離れたかったのかもしれない。 「それでは、星野孝志が村長になった経緯をお話します。まず、村長はこの村の出身ではありません」 「えっ!」  予想していなかった言葉に、三人揃って大きな声を出す。 「村長は、出張医としてこの村に来たのです」  「医者!?」  福原さんはテーブルにドンと手を付き、前のめりになる。  次々に記録を塗り替えてくる情報に、頭が追い付かない。 「村長が三十歳の時、ここの診療所に、週に一度来ていたのです。前の医者があまりにも傍若無人な態度をとる人だったので、村長が来てくれた時、安心したと母が言っていました。少し無愛想だけど、物静かでよく話を聞いてくれる先生だったようです」  村長の経歴があまりにも衝撃的すぎて、まだ心の整理がついていない。  意外だったのは、村民にとって最初の印象は悪くなく、むしろ慕われていたということ……。 「しかし、村長がこの村に来た時、一人のおじいさんが発熱し、そのあと直ぐに家族も感染、ダウンしてしまったんです。はじめは風邪がうつっただけだと思っていたのですが、お世話に来た親戚やその家族も同じように発熱したのです。その症状は多岐に渡り、激しい頭痛、それに伴った嘔吐、全身の痛みなど、風邪より少し重い症状が出たようです」  いつの間にか、相づちを打つことも忘れ、話に集中していた。 「感染力が強く、次々に広がっていったようです。何より怖かったのは、熱が高くなり、続くこと。子どもは熱性痙攣を起こしたり、大人でも危険な状態になったりと、重症に移行しやすいのが特徴でした。あまりの感染力に村民は、未知のウイルスなのではないかと噂し始め、狭い村の中ではすぐに広がり、パニックに状態になっていったんです」  確かに、こんな狭い村の中で感染力の高い病が流行ればパニックになり、色んな噂が広まるのも無理はない。 「そんな時、星野孝志が診断し、未知のウイルスだと認めたのです。その日から、村民を村の外へ出ることを禁じ、家からも出ないようにと指示します。これまで、先頭に立ち導く人がいなかったので、村民は徐々に星野を信用していったのです」  これが始まりだったのか……。 「星野はウイルスを村の外に出してはいけない、世界中が大変なことになる、と村民を脅し、完全に封じ込めました。そんな中、はじめに感染したおじいさんが亡くなります。感染によって初めての死者に、村の混乱はピークに達します。そんな時、星野はワクチンを開発したのです」 「開発!?」  思わず声が出た。 「村長が一人で特定し、開発したと言うことですか?」  俺は夫妻の顔を見た。 「そのようです」  バカな……。あり得ない。 「そのワクチンは治すものではなく、感染予防のワクチンでした。そして、処方する薬は、星野が症状に合わせて処方し、対応していました。はじめは、ワクチンを打つのを怖がっていた村民でしたが、星野自身が打つことによって安全を証明し、徐々に打つ人が増え、最終的には沈静化に成功したのです」  これが本当ならノーベル賞ものだぞ。 「結局ウイルスは特定できたんですが?」  福原さんはそう言うと、冷めたココアをすすった。 「──インフルエンザです」  
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