神判

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─2─  久しぶりに休みを合わせることができた俺と弟の篤人は、共通の趣味である山登りをすることにした。その話を俺の職場である、寿司屋の店長にしたところ、一緒に行きたいとのことだったので快諾し、三人で登ることにした。  弟の篤人は俺の4つ下の二十六歳で、美容師として働いており、休みが少なく、会うこと自体久しぶりだ。  俺たち兄弟は、昔からよく山に登っていた。道内の高い山へ挑戦したことだってある。  俺は高校卒業後、調理師学校へ進学し、卒業したあとは、札幌市内の寿司屋に就職することができた。そこの店長は59歳で、来年還暦だというのに、信じられないほどタフ。そしてなにより粋な人で、誰からも信頼され、お店の評判もいい。  そんな店長とは、登山が共通の趣味ということもあり、仲良くさせてもらっている。弟の篤人もご飯に連れて行ってくれたりと、親切にしてもらっている。      遠足前日の子どものように眠れなかった俺は、二度寝をしてしまい、慌てて準備を済ませた。  午前4時──。  弟のアパートへ向かうため、家を出た。  九月下旬、北海道の季節は冬へと向かうため、朝の気温がぐっと下がり、辺り一面霧で覆われていた。  今日の天気予報は快晴。登山日和だ。  車に乗り込み、早朝で車通りの少ない道を進む。十分ほど走ったところに弟のアパートがあり、弟を乗せてから福原さんを迎えに行く。  スマートフォンをポケットから取り出す。 「着いたぞ」 「今行く」  眠そうな声をしている。 「おはよう」 「おはよう。兄貴眠そうな顔してるぞ」 「──おい! そんなことより、その髪型なんだよ!」 「えっ? かっこいいだろ」 「随分と……まあ……」  弟とは、連絡は取っていたものの、直接会うのは半年ぶりだった。その間に、個性的な見た目へと変貌を遂げていた。 「それは、なんていう髪型なんだ? お侍さんみたいだな」 「侍って……。マンバンっていう髪型だよ。今流行ってるんだよ、知らないの?」 「確かに、最近よく見るな。お客さんにもいるわ」 「だろ? お気に入りだよ。それに今度タトゥーも入れようかと思ってるんだよ」 「なに!?」  思わず飲んでいたコーヒーを噴き出す。 「ちょっと、なにやってんだよ!」  笑いながら篤人がティッシュを俺に渡す。 「だ、だって、今タトゥーって」 「小さいのだよ。見えない所だから」  納得は行かないが、もう子どもじゃないんだよな……。 「──まあ、お前の人生だ。好きにしろ」  弟は昔から好奇心旺盛で、やると決めたらすぐ行動に移す。俺が止めたところで無駄だということは、知っている。  五分程度走ったところで、マンションが見えて来た。 「さあ、福原さんの家に着くぞ」  福原さんに連絡を入れる。 「福原さんに会うのも久しぶりだな」 「確かにな。一年は会ってないんじゃないか? 俺だって篤人と会うのも久しぶりだもんな」 「うん。お盆は実家に帰ったけど、兄貴は忙しくて帰って来れなかったもんね」  お盆の休みは当然なく、その代わり、今日から三日間、遅れた夏休みだ。 「おはよう!」 「おはようございます!」 「お久しぶりです、福原さん!」 「おお! 篤人、見ないうちにかっこいい髪型になってるじゃないか! 今流行りのマンバンだろ、それ」 「おおー! さすがです! あれ福原さん、少し痩せたんじゃないですか?」 「わかるか? 今ダイエット中なんだよ。この間の健康診断で引っかかってな」  そう言うと、少しきつそうなウエアの上から、大きく膨らんだお腹を叩いた。  俺らの身長は180センチと大きい方だというのに、福原さんはもっと大きい。しかも、横にも大きく、髪型も坊主。とても堅気には見えないような風貌だ。 「さて、出発しますよ」
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