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─5─
俺たちは拘束されたまま、開かれた場所へと連れてこられた。
すぐ近くには、ついさっき転落したと思わしき死体が、手つかずのまま放置されていた。視線を逸らすも、飛び散った何かが嫌でも視界に入り、衝撃の凄まじさと、今起こっていることが現実だということを思い知らされる。
突然のことに、集まっていた人たちも動揺し、騒然となり、俺たちを凝視していた。
「村長、すぐそこの茂みに隠れていました。審判を見ていたようです」
俺たちを拘束した男が、報告している。
「違う! 俺たちは雨で道に迷い、助けてもらおうとここに来ただけだ! 何も見てなどいない!」
俺の必死の訴えに、さらに村民はざわつく。
「──静かに」
村長がそう言葉を発すると、瞬時に静まり返る。
目の前に立つ村長と思わしき人物は、身長が低く小柄で、腹がはち切れそうなほど突出している。そして、わかりやすいカツラを被り、顔は浅黒く、ギョロッとした目が特徴的だった。一言でいえば『醜い』だろう。
その村長が、ペタペタと足音を鳴らしながら近付いてきた。
「一週間あげましょう。ここに永住するか、審判に委ねるか」
「ふざけるな! あんな高いところから助かるやつなんているわけないだろう!」
福原さんが村長に噛みつきそうな勢いで、身を乗り出す。
「いいんですよ、今すぐ審判を行っても」
「お前ら、村長のご厚意を無駄にする気か? 失礼じゃないか!」
「まあ、いいでしょう。一週間ぐらい待ってあげましょう。ゆっくり考えるといい。この村はいい所です。一週間ここで暮らせばきっと気に入ってくれることでしょう」
薄ら笑みを浮かべながら俺の肩を叩いた。
「井村さん、井村さん」
村長が名前を呼ぶと、どこからともなく、男性と女性が走ってきた。
「はい、村長」
「申し訳ないですがこの三人を、井村さんのお宅で一週間面倒をみていただけますか?」
「はい。村長からの頼みとあらば、喜んでお引き受けいたします」
「ありがとう、助かります。きっと神のご加護があることでしょう」
「ありがとうございます」
な、なんなんだ、この村は。村長の態度を見ていると、まるで王様のような振る舞いだ。この醜い男が王様とは笑ってしまうが。
「では、こちらへどうぞ」
井村というこの男女は、二度見してしまうほど顔の整った二人だった。美男美女……この二人の為にある言葉かと思わせる。
二人とも背が高く、手足が長い。
女性は吸い込まれそうなほど目が大きく茶色の瞳。肌は白く、艶のある黒く長い髪は一つにまとめられている。
男性は坊主で、目は女性同様大きく、鼻が高く日本人離れをした顔つき。まるで芸能人カップルを見ているようだ。
俺たちはこの二人に連れられ、少し離れた家へと案内された。この間、二人は一言も言葉を発することはなく、ただ前を向き歩いていた。
今、自分が置かれている状況を少しでも整理しようと思考を巡らせるが、どう考えても現実に起こっていることとは思えない。
嵐に巻き込まれ道に迷い、見つけてはいけない村を見つけ、そこで見てはいけないものを見てしまい、そこの悪い奴に掴まる……。映画でよく見る冒頭のワンシーンではないか。しかし残念ながらここはただの村であり、現実だ。まずはここがどこなのかを知るところから始めなければならない。それには、この二人が俺たちの味方なのか探る必要がある。
何事も分析をするのが好きな俺だが、今はまだ戸惑いの方が勝り何も考えることができない。
日頃から後悔という言葉を極端に避けてきたが、今は避けることなど不可能なほど後悔という感情が俺を占めていた。
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