76人が本棚に入れています
本棚に追加
─6─
「こちらです」
着いた場所は、広場から五分ほど歩いた所にある三角屋根の家だった。赤茶色の屋根で白い壁。よく見ると、周辺の家も同じような色、形の家ばかりだ。何から何まで不気味な村だ。
「狭い家ですけど、どうぞお入りください」
「──お邪魔します」
恐る恐る、中へ入る。
簡素な外観からは考えられないほど、温かみを感じる部屋だった。手作りと思われるソファカバーや、クッション。絨毯も編んだ物のようだ。昭和を思わせる部屋で、おばあちゃんの家に来たような気持ちになる家だった。
「寒くないですか?」
女性がソファに座る俺たちに声をかけた。
「はい、大丈夫です」と、福原さんが答える。
「自己紹介がまだでしたね。俺たちは夫婦で、井村俊と妻の日奈です。」
「俺等二人は兄弟で七瀬久斗と弟の篤人です」
「俺は、久斗の職場の上司で福原聡一です」
二人は終始穏やかな表情で話を聞いていた。
「あの……ここってなんて村ですか? 来たことがなかったもので」
「そうですよね。きっと知っている人の方が少ないのではないでしょうか」
「ここは宍別といいます」
お茶を出してくれた日奈さんが答えてくれた。そして、俊さんが続けた。
「この村は孤立していますから、知らない人が多いと思います。観光客も受け付けていませんし」
俊さんの発言に、この村に異質を感じたのは間違いではなかったと再確認する。
「俺たち、一刻も早くここを出たいんですけど、なんとかなりませんか?」
ソファに座る福原さんは、おしりを浮かせ身を乗りだした。
「残念ながら、我々にはどうすることもできません」
俊さんと、それを隣で聞いていた日奈さんは、俯いてしまった。
「俺たちはただ迷っただけなんです。ただそれだけなのに、なぜこんな仕打ちを……」
篤人が拳を膝に叩きつけた。
その後、狭い空間に沈黙が流れ、時を刻む針の音だけが虚しく鳴り響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!