神判

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─6─ 「こちらです」  着いた場所は、広場から五分ほど歩いた所にある三角屋根の家だった。赤茶色の屋根で白い壁。よく見ると、周辺の家も同じような色、形の家ばかりだ。何から何まで不気味な村だ。 「狭い家ですけど、どうぞお入りください」 「──お邪魔します」  恐る恐る、中へ入る。  簡素な外観からは考えられないほど、温かみを感じる部屋だった。手作りと思われるソファカバーや、クッション。絨毯も編んだ物のようだ。昭和を思わせる部屋で、おばあちゃんの家に来たような気持ちになる家だった。 「寒くないですか?」  女性がソファに座る俺たちに声をかけた。 「はい、大丈夫です」と、福原さんが答える。 「自己紹介がまだでしたね。俺たちは夫婦で、井村俊(いむらしゅん)と妻の日奈(ひな)です。」 「俺等二人は兄弟で七瀬久斗(ひさと)と弟の篤人です」 「俺は、久斗の職場の上司で福原聡一です」  二人は終始穏やかな表情で話を聞いていた。 「あの……ここってなんて村ですか? 来たことがなかったもので」 「そうですよね。きっと知っている人の方が少ないのではないでしょうか」 「ここは宍別(ししべつ)といいます」  お茶を出してくれた日奈さんが答えてくれた。そして、俊さんが続けた。 「この村は孤立していますから、知らない人が多いと思います。観光客も受け付けていませんし」  俊さんの発言に、この村に異質を感じたのは間違いではなかったと再確認する。 「俺たち、一刻も早くここを出たいんですけど、なんとかなりませんか?」  ソファに座る福原さんは、おしりを浮かせ身を乗りだした。 「残念ながら、我々にはどうすることもできません」  俊さんと、それを隣で聞いていた日奈さんは、俯いてしまった。 「俺たちはただ迷っただけなんです。ただそれだけなのに、なぜこんな仕打ちを……」  篤人が拳を膝に叩きつけた。  その後、狭い空間に沈黙が流れ、時を刻む針の音だけが虚しく鳴り響いていた。
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