神判

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─9─  外へ出ると、辺りは暗くなりだしており、空には透けた月が顔を出していた。  夫妻が前を歩き、俺たち三人は横並びになり歩いていた。  俺は不安を感じ、気が滅入りそうだった。逃げ出すと言ってみたものの、どこで、どのタイミングで逃げ出すのかなど、深い話し合いが出来ていないのだ。それに、会合とはどんなものなのか。さっきの出来事を考えれば普通の会合でないことは明らかだ。  俺の不安をこんなにも大きくする理由はもう一つある。会合へ行く人々を見かけるものの、誰ひとりとして表情がないのだ。まるで心を失くした面のように、皆、同じ顔をしている。この先に待つ会合が、どれだけこの村の人にとって憂鬱なものであるか、聞くまでもない。  会合が行われる会館は、五分ほどで着く距離にあった。見えてきた会館は、薄い桃色をした外観で、四角い大きな建物だった。壁を直している最中なのか、足場が組んである。  会館に着く頃には、全方位、人で溢れており、もしかするとこの村全員が集まっているのかもしれない。  中へ入ると、ライブ会場のようにステージが前にあり、階段状になっている席がびっしりと並んでいた。再びステージに目を向けた時、上から何かが下りてきているのに気が付いた。黙って見ているとそれは、村長の肖像画だった。福原さんがそれに気が付いたのか「おい、あれ見ろよ。気味が悪い」と、自分の腕を抱くような仕草をした。 「私たちは、ステージ前の席ですので、行きましょう」  夫妻は、肖像画に目も向けず、前へとぐんぐん歩いていった。 「ここです」  案内された席は、一番前でちょうど真ん中だった。座ると、あの肖像画がどれだけ大きいのかがよくわかる。  会館がざわつきはじめ、人が集まってきたようだ。俺たちは、肩を寄せ合い、小声で逃げる手はずを話し合う。 「とりあえず、この会合が終わるまでは大人しくしていよう。会合が終わり、外に出たとき、きっと人でごった返すだろうから、その時を狙うのはどうだ?」  福原さんが案を出す。 「俺もそれに賛成。その方が人の目も誤魔化せると思う」  篤人が賛同し、俺もその意見に異論はなかった。 「篤人、ここからあの道に行けるか?」 「うん。さっき周囲を観察しながら来たんだけど、なんとなくわかったから大丈夫だと思う」 「いや、なんとなくではだめだ。少しでも自信がないなら別の日にした方がいい」  俺は慎重派だ。 「──大丈夫。俺に任せて」  篤人は俺の目をまっすぐ見て頷く。 「じゃ、道は大丈夫そうだな。ここを出てすぐ走り出すのは怪しまれるし、目立つ。だから、しばらくは何食わぬ顔をし、歩いて行くことにしよう。そして、近くなったら一気に走る。これでどうだ?」 「福原さんの考えでいいと思います。絶対に怪しまれないように、なるべく同じ方向へ向かう人に紛れて行きましょう」  ここまで話したところで、会場が薄暗くなった。
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