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阿部先生が様子を見に来たときには、門倉さんは起き上がっていて、濡れたブランドの私服から、私が持ってきたお古の服を着て、プール掃除をしている。
「門倉、天峰、お疲れ様」
「阿部先生、こんにちは」
「ちは」
門倉さんには、ずっと、プールサイドに横たわってほしかった。そして、阿部先生にこっぴどく叱られてもらいたかった。
けれど、なかなか上手くはいかない。
「門倉、こんにちはだろ?あとの四人はサボりか~まったく!!」
阿部先生、私がやりました
なんて言わない。正直に話したところで、先生たちは見てみぬふりだと一学期に知ったから、私自身でいじめを終わらせる。
「門倉さん、楽しかったですか?」
私はもう一度同じ質問を投げ掛ける。無視するの?それとも・・・
「最後に泳げて楽しかったわ」
上手な笑顔、花丸な回答に私は満足して頷く。彼女の弱味を握った最後の夏は、まったく違う私になれた夏。
「天峰、門倉と仲良しだったか?」
あぁ、阿部先生知らないんだっけ?それとも知らないふりだったっけ?
私はぐいっと門倉さんの肩を引き寄せて笑って見せる。苦笑を浮かべる門倉さんの視線は私の背後に向けられている。
持ち込み禁止の茶髪ウィッグ、いつでも見せられるようにしているんだから、こう言うしかないよね?
「仲良しだよ!!ねぇ、蘭」
「そうだよー阿部先生ったら、何言ってるのよ?咲来、助けてくれてありがとう」
阿部先生に、溺れた蘭を私が助けたことを説明している私。真逆な出来事を知るのは、プール掃除をしていた二人だけ。
キュ、キュとデッキブラシを動かして、掃除を始めた蘭が、小さく舌打ちをした。
「明日になったら、違うんだからな!!」
違うのは蘭なのに、教えてあげようか?それとも言わないであげようか?
「天峰、嬉笑いか?」
クスクスと笑っていたのを阿部先生が、好意的に捉える。この笑いがどんな風に変わっていくかなんて、私次第。
「明日が楽しみだなって思っただけです」
再びデッキブラシを持ち、端に行ってしまった蘭を追いかけていく。
「待ってよ~蘭!!」
「来ないでよ・・天・・咲来!!」
そんなに、怯えなくてもいいのに、だって友達でしょ?
二学期になったら、楽しいことが待っている。一学期とは違う立場で、蘭と仲良くできるのだから。
終
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