13人が本棚に入れています
本棚に追加
車を降り、いきなり身体中を包んだ熱気に顔を顰める。
顔を顰めたのは、きっと暑さだけのせいじゃない。
こんな場所に、貴方を連れて来たくなんかなかった。
今、通って来たばかりの通りからは、行き交う車の走行音。
少し離れた学校の校庭から、野球ボールを打つ爽快な音。
活気溢れる生徒たちの掛け声。
斎場の周りをぐるりと囲む鬱蒼と葉を茂らせた木の上で、蝉がうるさいくらいに「生きている」と主張する。
生きている。
生きている。
この街の中は、いつもどおりに。
私は大切な人を喪ったのに。
夏の雲は嫌い。
大切な人を攫って行ったから。
しかし、この雲はやがて崩れて、激しい雨を降らせるだろう。
そして何度かそれをやり過ごせば、息もできないくらい苦しかった夏の終わりは、きっと来る。
――了――
最初のコメントを投稿しよう!