宣告

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レッスン室は、防音効果の施された窓のない部屋。 仕事を終え、駐車場へ向かいながら、私は何時間か振りに空を見る。 晴れ渡った高い空に、(ほうき)で薄く掃いたような、すじ雲が、何本も長く空を渡るように浮かんでいた。 そういえばさっき、生徒のヘアゴムについていたアクセサリーは、フェルト生地でできた黒猫の顔の下に、小さな(ほうき)の形の飾りがついていた。 きっとあの黒猫の魔法使いが、小さな箒で長い時間をかけて、雲を掃除したのだろう…… そんな事を想像したら、笑みが溢れた。 スーパーで食材を買って、高校生の娘たちが喜びそうなハロウィン仕様のケーキ、父母と私たち夫婦の分はモンブランを買い、帰宅した私は、いつものように夕飯の支度をする。 そしていつものように家族6人で食事を済ませた。 今日のような季節のイベントの日は、何かをする訳でもないが、家族でケーキなどを食べて雰囲気を味わった。 そう、いつもとたいして何も変わらない夜だった。
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