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階段を、踏み外してしまってあっという間に一階に落ちてしまった。身体中に広がっていく痛みと、視界の隅には赤い水溜りが広がっていく。
恐怖や怒りはなく、ただただ自分の置かれている状況が理解できなかった。その時俺の脳内には、今までの出来事が走馬灯のように横切った。
楽しかった日々。運動会の時にリレーで一位になったこと。両親が健在の時に、いつも楽しくて温かい家庭。
何も言わない彼女を見る。雫ちゃんは、こちらを見下ろして不気味に笑っていた。
「……えっ……なん……で」
「なんで? 自分の胸に手を当てて、考えてみたら。まあ、もう。無理だろうけど」
うすら笑いを浮かべる彼女をみて思い出した、俺に妹なんていなかった。本当は、あの時。俺が、いや。私が兄に階段から突き落とされたのだ。
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