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私は、空を見上げた。
たぶん、ずっと、どこかで、見守ってくれていたのだろう。
滑空してきたドラゴンが、凄まじい音をたてて、館の屋根に着地した。
勢いよく屋根が壊れる。
ちょっと笑ってしまったのは、ドラゴンが、あらまぁ、という顏をしたように見えたからだ。
屋敷から人がわらわらと飛び出てくる。
寝間着姿のお父さんが奇声を上げている。
ピピがお父さんに何か告げている。
私は足元の鈴を拾い上げた。
ドラゴンを見る。顔に爆ぜたような跡がある。ドラゴンも私を見ていた。るー、るー、と変な音が聞こえてくる。あの時のドラゴンに違いなかった。
おいで、という気持ちで鈴を鳴らす。
ドラゴンが、ぶわ、と私たちめがけて迫ってくる。
娘から離れろ! だの、ベルこっち! だの、いろんな声が聞こえる中、私は、ドラゴンに向かって両手をひろげた。
ドラゴンは、私を包み込むようにして、地面に降り立った。
「ベル、きみ──」
ピピの瞳には、はっきりと羨望の色が滲んでいた。
ピピはドラゴンの語り部だ。
だけど、ドラゴンと語り合う術を持つわけではないのだ。
一方的に語るのではなく、ピピがドラゴンと語り合えていたら、どんなによかっただろう。
私も、はっきりと意思疎通ができるわけではない。ドラゴンを思い通りにできるわけではない。
でも、何となく気持ちがわかった。
この鈴の音に喜んでくれた子だからだろうか。
朝日が周囲を照らす。森から次々とドラゴンが飛び立っていく。
私を囲むようにしているドラゴンが、ふるる、と鼻を鳴らした。
どうする? と問われたような気がした。
私はそこにいる全員を眺めた。
お父さんや、村人が、こちらに銃を向けている。でも撃てない。私がいるからだ。
「お父さん、村のみなさん、お願いです。私にチャンスをください」
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