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ふっと目が覚めた。
がばっと体を起こす。
「まずい」
いつも入ってくる岩の隙間からの光が、ない。
慌ててカンテラを引き寄せる。火打ち道具一式を探ったところ、鈴に手が当たった。
どうせなら、と鈴も手にする。熊除けくらいにはなるだろう。
手さぐりで外に出て、火を灯した。
「……どうしよう、月が見えない。星も」
怖い。でも、歩き出さなくては始まらない。
おそるおそる足を踏み出した瞬間だった。
何かが足元を掠めた。
喉の奥で、ひっ、と声が詰まる。
小さな獣だ。イタチだろうか。それとも、もっと恐ろしい、なにか。
次の瞬間、私は駆け出していた。
怖い、怖い、怖い。
りっ、りっ、りっ、と鈴が音を刻む。
無茶をしたのは、すぐにいつもの道に戻れる、という思いからだった。だけど、なかなか辿り着かない。
変だなと思った頃には、もう道に迷っていた。
我に返ってコンパスを見る。針は安定せず、中でぐるぐる回っている。
絶望的な気分で辺りを見回した時だった。
すぐ近くで、あの不思議な音が聞こえた。
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