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私がドラゴンに攫われかけた話は、すぐ村中にひろまった。 違うよ、という声は、まるで届かなかった。 それどころか、危ないから部屋から一歩も外に出てはならない、と外から鍵をかけられた。抜け出そうとしたけど、見張りが厳しくてだめだった。 王都へ戻るという宮廷薬師さんからは、守れなくて申し訳ない、と言われた。お父さんとお母さんはほっとしていた。婚約破棄にならなくてよかった、という気持ちが透けて見えた。 私はピピに会いたかった。 森で起こった本当の出来事を話したかった。 きっと、ピピならわかってくれる。 どこにも行けず、誰とも話さず。 欝々とした日々が、しばらく続いた。 たまに鈴を鳴らす。 よくよく耳を澄ますと、あの音楽が、どこからか微かに聞こえてくる。 私を助けてくれたドラゴンは、きっと無事だ。そう思うことだけが、唯一、心のなぐさめだった。 ある日、使用人たちの話し声が、部屋の扉のむこうから聞こえてきた。 「ピピを館に招くそうだよ」 「語り部をか。縁起が悪そうな」 「あれでもドラゴンの有識者だからな。もう夏の終わりだ。ドラゴンが飛び立つだろう。やつらが消えたあと、森の調査をし、戻って来ても巣を作れないように、罠を仕掛けて回るそうだよ」 にぎやかな声が去っていく。 え、と私はその場で固まった。ピピがドラゴンを追い払うための罠に協力するなんて。信じられない。 ドラゴンを守るために、ピピは、お父さんたちに嘘を言うつもりかもしれない。 ばれたらどんな目に遭わされるだろう。 いや、むしろ危ないのはお父さんかもしれない。 だって、お父さんは森でドラゴンの縄張りを荒している。協力するふりをして、ひょっとして? ピピ、何を考えているの?
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