28人が本棚に入れています
本棚に追加
3
私がドラゴンに攫われかけた話は、すぐ村中にひろまった。
違うよ、という声は、まるで届かなかった。
それどころか、危ないから部屋から一歩も外に出てはならない、と外から鍵をかけられた。抜け出そうとしたけど、見張りが厳しくてだめだった。
王都へ戻るという宮廷薬師さんからは、守れなくて申し訳ない、と言われた。お父さんとお母さんはほっとしていた。婚約破棄にならなくてよかった、という気持ちが透けて見えた。
私はピピに会いたかった。
森で起こった本当の出来事を話したかった。
きっと、ピピならわかってくれる。
どこにも行けず、誰とも話さず。
欝々とした日々が、しばらく続いた。
たまに鈴を鳴らす。
よくよく耳を澄ますと、あの音楽が、どこからか微かに聞こえてくる。
私を助けてくれたドラゴンは、きっと無事だ。そう思うことだけが、唯一、心のなぐさめだった。
ある日、使用人たちの話し声が、部屋の扉のむこうから聞こえてきた。
「ピピを館に招くそうだよ」
「語り部をか。縁起が悪そうな」
「あれでもドラゴンの有識者だからな。もう夏の終わりだ。ドラゴンが飛び立つだろう。やつらが消えたあと、森の調査をし、戻って来ても巣を作れないように、罠を仕掛けて回るそうだよ」
にぎやかな声が去っていく。
え、と私はその場で固まった。ピピがドラゴンを追い払うための罠に協力するなんて。信じられない。
ドラゴンを守るために、ピピは、お父さんたちに嘘を言うつもりかもしれない。
ばれたらどんな目に遭わされるだろう。
いや、むしろ危ないのはお父さんかもしれない。
だって、お父さんは森でドラゴンの縄張りを荒している。協力するふりをして、ひょっとして? ピピ、何を考えているの?
最初のコメントを投稿しよう!